社会福祉法人の理事、評議員等の損害賠償責任について

 特別養護老人ホーム等の介護施設等を運営している社会福祉法人においては、現在、平成29年4月1日の社会福祉法改正法の施行に向けて、定款変更等の手続の真っ最中だと思います。
 ところで、今回の改正の重要な点の一つとして、社会福祉法人の理事、監事、評議員等の損害賠償責任に関する規定が新たに設けられたということがあげられます。
 これにあわせて損保会社でも社会福祉法人の役員賠償責任保険を売り出しているようです。
 想定されるケースとしては、社会福祉法人の運営管理が不適切であり法人等に損害を与えた、職員の不正に対する監督責任を怠った、職員の過労死や自殺等に対する適切な対応を怠った、職場内でのセクハラ・パワハラ等を放置したなどの例があげられると思います。

 社会福祉法人の理事等の責任は、法人に対するものと、法人の債権者等の第三者に対するものとがあります。

 社会福祉法の改正前は、法人に対する関係では、理事等と法人との関係は委任関係に立つことから受任者である理事等は法人に対して善管注意義務(民法第644条)を負い、それに違反した場合は法人に債務不履行責任(民法第415条)を負い、第三者に対する関係では、一般の不法行為責任(民法第709条)を負うに過ぎませんでした。

 しかし、今回の改正法によって、理事等は、以下のような責任を負うことになりました。
 まず、法人に対する損害賠償責任として、理事、監事、会計監査人、評議員は、その任務を怠ったときは、社会福祉法人に対して、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負うこととされました(改正法第45条の20第1項)。
 また、第三者に対する損害賠償責任として、理事、監事、会計監査人、評議員がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うこととされました(改正法第45条の21第1項)。
 加えて、法人に対する責任においては、理事が、法の規定に違反して競業取引をしたときは、当該取引によって理事又は第三者が得た利益の額を損害の額と推定するとの規定(改正法第45条の20第2項)、利益相反取引によって法人に損害が生じたときは、利益相反取引を行った理事、当該取引を行うことを決定した理事、当該取引に関する理事会の承認決議に賛成した理事は、その任務を怠ったものと推定するとの規定(改正法第45条の20第3項)などが設けられました。

 これらの規定では、任務懈怠という概念(任務には、法令を遵守して職務を行うことが含まれ、法令には、法人の利益保護を目的とする具体的規定だけではなく、刑法や独占禁止法など公益の保護を目的とする全ての法令が含まれ、後者への違反も任務懈怠となります。)、任務懈怠や損害の額の推定規定(立証責任の転換規定)を用いることによって、理事等の責任が加重されることとなりました。

 もっとも、これらの規定は、株式会社等を対象とする会社法や、一般社団法人・財団法人を対象とする一般社団法人及び一般財団法人に関する法律などの規定と平仄を合わせたものです。
 急速に高齢化が進む我が国においては、高齢者の介護施設の運営が社会福祉法人という形態で営まれていることも多く、社会福祉法人が社会における重要なインフラになっている現状に鑑みると、なされるべくしてなされた法改正と言えます。
 遅れていた法規制をようやく株式会社標準のレベルに合わせたということですから、現在の社会福祉法人の社会における役割の重要性に鑑みても、リスク管理の面でも、株式会社と同レベルの対応を要請する風潮は強くなっていくと思われます。社会福祉法人の管理運営にあたっては、介護事故、職員の労働に関する問題など様々なリスクが存在していますが、今後は、株式会社同様、法的なリスク管理を意識して、社会福祉法人の管理運営をしていくことが必要です。

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