社会福祉法人における評議員の選任

 平成29年4月1日から施行される社会福祉法の改正法において、社会福祉法人の経営組織のガバナンス強化の観点から、評議員、評議員会についての制度改正がなされました。

 現行制度では、評議員会は任意設置の諮問機関とされていますが、改正法により、必置の機関とされ(改正法第36条第1項)、役員(理事、監事)等の選任・解任(改正法第43条、第45条の4)等の決議を行う議決機関と位置づけられました。
 また、評議員会の構成員である評議員と役員(理事、監事)、当該社会福祉法人の職員との兼職は禁止されることとなりました(改正法第40条第2項)。
 改正法では、評議員会は、役員(理事、監事)等の選任・解任等を通じて事後的に法人運営を監督する機関として位置づけられることとなりました。

 では、評議員会の構成員である評議員はどのように選任されるのでしょうか。
 改正法は、社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから、定款の定めるところにより選任すると規定しているのみです(改正法第39条)。
 厚生労働省による平成28年11月11日発出事務連絡によれば、定款で定める方法としては、法人関係者でない中立的な立場にある外部の者が参加する機関を設置し、この機関の決定に従って行う方法等が考えられるとされており(「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について(経営組織の見直しについて)」厚生労働省社会・援護局福祉基盤課・平成28年6月20日(平成28年11月11日改訂))、具体的には、「評議員選任・解任委員会」を設置することが具体的な選択肢として提示されています(「『社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について』等に関するQ&A」厚生労働省社会・援護局福祉基盤課・平成28年6月20日(平成28年11月11日改訂))。
 そして、厚生労働省による平成28年11月11日発出通知により、定款例が示されており、それによれば以下の内容となっています。

(評議員の選任及び解任)
第六条 この法人に評議員選任・解任委員会を置き、評議員の選任及び解任は、評議員選任・解任委員会において行う。
2 評議員選任・解任委員会は、監事○名、事務局員○名、外部委員○名の合計○名で構成する。
3 選任候補者の推薦及び解任の提案は、理事会が行う。評議員選任・解任委員会の運営についての細則は、理事会において定める。
4 選任候補者の推薦及び解任の提案を行う場合には、当該者が評議員として適任及び不適任と判断した理由を委員に説明しなければならない。
5 評議員選任・解任委員会の決議は、委員の過半数が出席し、その過半数をもって行う。ただし、外部委員の○名以上が出席し、かつ、外部委員の○名以上が賛成することを要する。
(備考)
評議員の選任及び解任は、上記の評議員選任・解任委員会以外の中立性が確保された方法によることも可能である。なお、理事又は理事会が評議員を選任し、又は解任する旨の定款の定めは効力を有しない(法第31条第5項)。

 もっとも、この定款例によっても、評議員の選任・解任を評議員選任・解任委員会においてすること、評議員選任・解任委員会の構成が監事、事務局員、外部委員からなることが規定されているものの、個別の評議員選任・解任委員会の委員の選任を誰が行うのかまでは明確に規定されていません。

 この点について、上記の「社会福祉法人制度改革の施行に向けた留意事項について」等に関するQ&A・厚生労働省社会・援護局福祉基盤課・平成28年6月20日(平成28年11月11日改訂)が、評議員選任・解任委員会の委員は、法人運営の状況を把握し、業務執行に関し責任を負う理事会において選任する方法が考えられる、この場合、特定の理事が委員を選任するとした場合、偏った委員構成となるおそれがあるため、理事会において決定することが適当であるとの回答を記載しています。
 理事が評議員選任・解任委員会の委員となることについては、法の規定によって、理事又は理事会が評議員を選任する旨の定款の定めは無効であるとされた(改正法第31条第5項)ことから認められませんが、理事会が評議員選任・解任委員会の委員を選任する方法は考えられるとしているのです。
 理事会の多数派の意に沿って行動する評議員選任・解任委員会の委員が理事会で選任され、その意のままに行動すれば、実質的に理事会の多数派が評議員選任・解任委員会の委員になるのとほとんど変わらないのではないかとも思われます。
 実質的に被監督者が監督者を選任しているという状況に陥ってしまえば、ガバナンスの実効性は確保できず、リスク管理の観点からも不適切であるといえます。
 上記法の枠組みの中で、各法人ごとに、その規模等に応じて、評議員選任・解任委員会の委員構成の多様性を持たせ、選任方法を工夫するなどして、ガバナンスの実をあげうるような取り組みが求められるところです。