社会福祉法人の理事会・評議員会での決議・報告の省略

 社会福祉法人制度改革にかかわる法(平成29年4月1日施行の社会福祉法等の一部を改正する法律)改正によって、評議員会が、法人運営の基本ルール・体制の決定と事後的な監督を行う必置の議決機関と位置づけられ、定款の変更、理事・監事・会計監査人の選任・解任、理事・監事の報酬の決定等の決議を行うとの法の規定が設けられました。

1 評議員会の決議の省略について
 このことに関連して、議案に応じて評議員会の開催、決議を省略できるかという問題があります。
 評議員会の決議については、社会福祉法45条の9第10項が、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律194条の規定を準用しています。
 これによりますと、理事が評議員会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき評議員(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の評議員会の決議があったものとみなすとされています。
 したがって、このような場合には、評議員会を開催しないことが可能となります。
 もっとも、評議員会を開催しなくても適正な手続を行われたことの説明ができるよう評議員の同意の意思表示に係る文書又は電磁的記録については、議事録と同様に、その主たる事務所に10年間保存しておく必要があります。
 法律上は、評議員会の決議の省略のためには、理事による提案であることが必要ですが、議案の内容に関する制限は特に設けられていませんので、次項で述べる評議員会への報告の省略とあわせると、あまり望ましい事態ではないと思いますが、定時評議員会の決議の省略も可能と考えられると思います。
 この制度は、会社法319条の規定に対応するものであり、株式会社では、取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなすとされています。

2 評議員会への報告の省略について
  評議員会の決議ではなく、評議員会への報告については、社会福祉法45条の9第10項が、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律194条の規定を準用しています。
 これによりますと、理事が評議員の全員に対して評議員会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を評議員会に報告することを要しないことにつき評議員の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の評議員会への報告があったものとみなすとされています。
 報告事項としては、定時評議会への事業内容報告(社会福祉法45条の30第3項)などがあげられます。
 これは、会社法320条の規定に対応するものです。同条では、取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなすとされています。

3 理事会の決議の省略について
 評議員会と同様、理事会の開催、決議を省略できないかという問題もあります。
 理事会の決議については、社会福祉法45条の14第9項が、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律96条の規定を準用しています。
 これによりますと、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき理事(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監事が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるとされています。
 評議員会の場合と異なり定款に定めのあることが必要ですが、厚生労働省の局長名で出されている平成28年11月11日付けの通知で示されている社会福祉法人定款例では、これに該当する規定が盛り込まれています。
 この規定は、会社法370条に対応するものであり、同条では、取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができると規定しています。

4 理事会への報告の省略について
  理事会への報告については、社会福祉法45条の14第9項が、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律98条の規定を準用しています(社会福祉法施行令13条の9で技術的読替えがされている部分があります。)。
 これらによりますと、理事、監事又は会計監査人が理事及び監事の全員に対して理事会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を理事会へ報告することを要しないが、このことは社会福祉法45条の16第3項の規定による報告については適用しないとされています。
 社会福祉法45条の16第3項では、業務執行理事は、三月に一回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない(ただし、定款で毎会計年度に四月を超える間隔で二回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りでない。)とされていますが、この報告は省略できないことになります。
 この規定は、会社法372条に対応するものであり、同条1項では、取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しないとしつつ、同条2項で、この規定は取締役会設置会社の業務執行取締役の三月に一回以上の自己の職務の執行状況の報告には適用しないとされています。