社会福祉法人における利益相反取引(1)

 社会福祉法人の運営において注意しなければならない事項として利益相反取引があります。理事が、一方では個人または他の法人の代表者としての資格で、他方では当該社会福祉法人の理事の資格で、社会福祉法人との間で取引を行う場合が利益相反取引に該当します。このような場合、理事個人の利益と法人の利益が衝突し、適正な業務執行を期待できない可能性があることから、法は規制を設けています。

 理事の構成が変わらない間はこの問題は表面化しにくいのですが、理事の構成が変わり、法人内部において従前の執行機関の責任が問われた際に問題が顕在化し、損害賠償請求という形で理事に対する責任追及が行われることがあります。

 利益相反取引については、平成29年4月施行の改正社会福祉法において規定の整備がなされ、法律の規制が以前よりも厳しくなっており、対応や手続に注意が必要です。

法改正前
 社会福祉法に民法第57条の準用規定があり(旧社会福祉法第45条)、法人と理事との利益相反する事項については理事は代理権を有しないこととされ、この場合においては、所轄庁が利害関係人の請求によって、または職権で特別代理人を選任することとされていました。もっとも、法改正前の定款準則第10条2項には、「理事長個人と利益相反する行為となる事項及び双方代理となる事項については,理事会において選任する他の理事が理事長の職務を代理する。」との規定があったことから、この定款準則に基づいて定款を作成していた社会福祉法人では、この内容に沿った定款規定に基づいて手続をすれば足り、特別代理人を選任する必要はありませんでした。
 そして、利益相反取引によって社会福祉法人に損害が生じたときも、法改正前は、社会福祉法人から個々の理事に対して損害請求を行うためには、個々の理事の善管注意義務の有無の問題から検討が必要でした。

法改正後
 以下のように規制の内容が変わりました。

1 利益相反取引についての理事会の承認
(社会福祉法第45条の16第4項で一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第84条を準用)
 理事は、次の場合については、理事会において当該取引について重要な事実を開示し、その承認を受けなければならないとされています。
・直接取引
 理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとするとき
・間接取引
 社会福祉法人が理事の債務を保証することその他理事以外の者との間において社会福祉法人と当該理事との利益が相反する取引をしようとするとき

2 理事会の承認を得ないでなされた利益相反取引についての理事の責任
・任務懈怠の責任
(社会福祉法第45条の20第1項)
 理事が理事会の承認を得ないで利益相反取引を行うと、法令違反行為をしたことになり、善管注意義務違反を問うまでもなく、法令違反行為それ自体が任務懈怠になると考えられ、社会福祉法人に対して任務懈怠の責任を負うことになります。
 もっとも、理事が理事会の承認を得て取引を行った場合でも、その結果として社会福祉法人が損害を蒙った場合は、理事は善管注意義務・忠実義務違反の責任を負うことがあります。  
・任務懈怠の推定規定
(社会福祉法第45条の20第3項)
 利益相反取引により社会福祉法人が損害を蒙った場合は、以下の理事は任務を怠ったものと推定されます。つまり、理事の側で任務を怠っていないことを立証しない限り責任を免れることはできなくなりますが、この立証は実際には非常に難しいものとなります。
・直接取引の場合の取引相手である理事
・間接取引の場合の社会福祉法人と利益が相反する理事
・社会福祉法人が当該取引をすることを決定した理事
・当該取引に関する理事会の承認の決議に賛成した理事

 このように法改正によって、利益相反取引を行った理事だけでなく、取引を行うことを決定した理事や承認決議に賛成した理事らも任務懈怠の推定を受ける(その反証は実際にはかなり難しい)など、法規制の内容が厳しくなっています。社会福祉法人の理事は、日頃から利益相反取引についての問題意識を高め、業務執行行為を行っていくことが必要です。社会福祉法人をグループで経営しており、グループ内の法人での理事の兼任がみられる場合で、かつグループ内で取引がある場合は、特に注意が必要となってきます。