成年後見人に死後の事務をどこまで頼めるか?

 施設に入所していた人が死亡した場合、生前の療養費の支払い、入所施設内に残した動産類の処置、遺体の引取りやの火葬・埋葬などの対応が必要となります。相続人が対応してくれればよいのですが、そうでない場合、施設側が困ることがあると思います。
 このような場合、死亡した人に成年後見人が付いていた場合、施設側として、成年後見人にどこまで対応を求めることができるのでしょうか。

 成年被後見人、上記の場合は施設入所者(以下、「本人」といいます。)が死亡した場合、成年後見は当然に終了しますので、成年後見人は本人の法定代理人としての権限を失うことになるのが原則です。
 しかし、実際には、上記のように相続人が対応できない場合など、成年後見人が本人の死亡後も一定の死後事務を行うことを期待される場合があります。
 このような場合、従前は、応急処分(民法第874条、第654条)等の規定を活用して成年後見人が適宜対応をしてきたと思われますが、成年後見人が行える事務の範囲が必ずしも明確でなかったことから、どこまで対応するかについての判断は、成年後見人によって異なり得たものと思われます。

 この問題について、平成28年4月6日に「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し,同月13日に公布、去る10月13日から施行されました。
 この法律によって新設された民法第873条の2の条文の内容は、以下のとおりです。

第873条の2
 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)

 これにより、療養費の支払いのような弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の死後事務が成年後見人の権限に含まれることが、法文上、明確にされました。
 もっとも、民法第873条の2第3号の行為を行うにあたっては,家庭裁判所の許可を得る必要があります。東京家庭裁判所の窓口備置資料によると、許可が必要な行為の具体例は以下のとおりであるとされています。
①本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(葬儀に関する契約は除く。)
②債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し(振込により払い戻す場合を含む。)
③本人が入所施設等に残置した動産等に関する寄託契約の締結
④電気・ガス・水道の供給契約の解約 など
葬儀については、今回の改正法でも成年後見人の権限として規定されませんでした。もっとも、後見人がやむを得ず葬儀を行わなくてはならない場合には、事務管理(民法697条)としてその費用の支払が認められる可能性があることは、従前と同様です。

 そして、新設された民法873条の2条文にも明記されているように、成年後見人が同条の死後事務を行うためには、以下の要件をみたすことが必要です。
①本人が死亡したこと
②成年後見人が許可を要する行為を行う必要があること
③本人の相続人の意思に反することが明らかであるとの事情がないこと
④相続人が相続財産を管理し得る状況にないこと
 このうち、④の要件については、相続人が、病気で入院したり、長年音信不通の状態であるなどの理由により死後の事務ができ得る状況にないことを想定しているようであり、条文の文言からしても、成年後見人からの相続財産の引継ぎ方法について相続人間で揉めているような場合は想定していないものと思います。

 また、今回新設された死後事務の権限についての規定は、成年後見人を対象にするものであり、任意後見人や保佐人、補助人、未成年者の後見人は、対象外です。
 保佐人や補助人が死後事務を行う場合は、従前と同様、応急処分(民法第876条の5第3項、民法876条の10第2項、第654条)や事務管理(民法第697条)の規定を根拠に、その可否を判断することになります。