社会福祉法人における利益相反取引(2)~直接取引・理事兼任の場合の法人間取引についての規律~

 利益相反取引として法の規制対象となる社会福祉法人の取引のうち、理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとする場合が、いわゆる直接取引にあたります。

 理事が自分の財産を社会福祉法人に売却するような場合には、理事が法人の利益のために自己を犠牲にして取引することを常に期待することは困難であり、理事が第三者のために法人と取引をする場合も第三者の利益を図るため法人の利益を犠牲にするおそれがあることは否定できないため、利益相反取引に関する規制が設けられているものです。

 典型的な場合は、下の【図1】の上段の類型のように社会福祉法人甲が理事Aと取引を行うにあたって、社会福祉法人甲を代表するのが社会福祉法人甲と取引を行う理事Aである場合ですが、社会福祉法人甲を代表する理事が理事Aでなく理事Bである場合でも、社会福祉法人甲の業務執行に関与する理事Aと当該Aが理事を務めている社会福祉法人甲との間の取引であるため、規制の対象となります(【図2】の上段の類型)。

【図1】

【図2】

理事の兼任がある場合の法人間の取引
 取引を行う法人同士で理事の兼任がなされている場合はどのようになるのでしょうか。
社会福祉法人をグループで経営している場合、グループ内の複数の法人で理事の兼任がなされていることがあると思います。例えば、上の図でいうと、社会福祉法人甲の理事Aが法人乙の理事も兼任しているような場合です。
 この場合、社会福祉法人甲と法人乙が取引するにあたって、社会福祉法人甲と理事Aの利益相反取引規制はどのように適用されるのでしょうか。
 設例では、法人乙は、理事、理事会が置かれ、社会福祉法人と同様の利益相反取引規制のある法人であるとします。

1 理事Aが社会福祉法人甲と法人乙の双方を代表している場合(【図1】の中段)
 この場合は、社会福祉法人甲にとっては、理事Aが社会福祉法人甲を代表すると否とにかかわらず、社会福祉法人甲の理事であるAが代表している法人乙と取引をするわけですから、理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとするときにあたり社会福祉法人甲の理事会の承認が必要になります。
 法人乙にとっても、法人乙の理事であるAが代表している社会福祉法人甲と取引をするわけですから、理事が自己又は第三者のために法人(乙)と取引をしようとするときにあたり法人乙の理事会の承認が必要になります。

2 理事Aが社会福祉法人甲を代表しているが、法人乙を代表していない場合(【図1】の下段)
 この場合は、社会福祉法人甲にとっては、社会福祉法人甲の理事であるAが代表している法人乙と取引をするわけではないので、理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとするときにはあたらず、社会福祉法人甲の理事会の承認は不要になります。
 もっともいわゆる間接取引として利益相反取引にあたる可能性はあり、それについては別途検討が必要です。
 他方、法人乙にとっては、法人乙の理事であるAが代表している社会福祉法人甲と取引をするわけですから、理事が自己又は第三者のために法人(乙)と取引をしようとするときにあたり法人乙の理事会の承認が必要になります。

3 理事Aが社会福祉法人甲を代表していないが、法人乙を代表している場合(【図2】の中段)
 この場合は、社会福祉法人甲にとっては、理事Aが社会福祉法人甲を代表すると否とにかかわらず、社会福祉法人甲の理事であるAが代表している法人乙と取引をするわけですから、理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとするときにあたり社会福祉法人甲の理事会の承認が必要になります。
 他方、法人乙にとっては、法人乙の理事であるAが代表している社会福祉法人甲と取引をするわけではないので、理事が自己又は第三者のために法人(乙)と取引をしようとするときにはあたらず法人乙の理事会の承認は不要になります。

4 理事Aが社会福祉法人甲と法人乙の双方とも代表していない場合(【図2】の下段)
 この場合は、社会福祉法人甲にとっては、社会福祉法人甲の理事であるAが代表している法人乙と取引をするわけではないので、理事が自己又は第三者のために社会福祉法人と取引をしようとするときにはあたらず、社会福祉法人甲の理事会の承認は不要になります。
 また、法人乙にとっても、法人乙の理事であるAが代表している社会福祉法人甲と取引をするわけではないので、理事が自己又は第三者のために法人(乙)と取引をしようとするときにはあたらず法人乙の理事会の承認は不要になります。

 以上のとおり、社会福祉法人をグループで経営しており、グループ内の複数の法人で理事の兼任がなされている場合、規制が複雑ですので注意が必要です。