節税目的の養子縁組

 マスコミ報道によると、最高裁判所第三小法廷(木内道祥裁判長)が、節税目的の養子縁組が有効かどうかが争われた訴訟の上告審弁論を平成28年12月20日に開くことを決めた、最高裁は、通常、第2審の結論を変更する場合に弁論を開くので養子縁組を無効とした第2審の東京高等裁判所の判決を見直す可能性があるとのことです。
 第2審の東京高裁の判決は判例集にも未掲載のようで原典にあたれていないので、事案の詳細は不明ですが、マスコミ報道によると、2013年6月に82歳で死亡した男性がその前年に行った長男の息子(孫)との養子縁組の有効性が争われている事案で、死亡した男性の娘2人が「父に意思はなかった」と提訴し、第1審の東京家庭裁判所の判決は、養子縁組を有効と判断したのに対し、第2審の東京高裁は「縁組は税理士から勧められた相続税対策のためであり、親子関係を結ぶ意思がなかったのは明らか」として養子縁組を無効としたようです。
 養子縁組の無効原因として、民法第802条第1号は「当事者間に縁組をする意思がないとき」をあげており、実際に養親子関係を形成する意思(実体的意思・実質的意思)がなければ養子縁組は無効になると解されています。この考え方(実体的意思説)によれば、他の目的を達するための便宜的手段として養子縁組の形式が用いられているに過ぎない場合には、「当事者間に縁組をする意思がないとき」として養子縁組は無効になると判断されることになろうかと思います。

 養親からの相続のみを目的とする養子縁組について考えると、成年養子にあっては養育目的の養子縁組というのは通常は考えられず、相続が養子縁組の主要な効果であるとも考え得ることから、相続についての効果意思がある養子縁組の場合と、単に相続税の軽減のみを目的としている養子縁組の場合とで分けて考える必要があるとも言えそうです。
 地裁や高裁レベルの過去の裁判例でも、養子縁組の動機や目的に相続税の節税が含まれていたとしても、そのことにより直ちに養子縁組が無効になるものではないと判断しているものがみられます。
 今回は、最高裁として、「縁組をする意思」について判断を示すことになるのか注目されるところです。

 法律的には、上記のように「縁組をする意思」が認められればよいのですが、税法上の取扱いは、養子縁組が法律的に有効でも、節税効果がそのまま全てについて認められるわけではないので注意が必要です。

 相続税の計算をする場合には、相続税の基礎控除額等については、法定相続人の数をもとに計算をします。例えば、基礎控除額については、「3000万円+600万円×法定相続人の数」という計算を行います。したがって、養子を増やせば増やすほど、基礎控除が増え、節税ができるようにも見えますが、実際はそのような制度にはなっていません。
 基礎控除額等の計算をするときの法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定の例外を除き、原則として以下のように一定数に制限されていますので(相続税法第15条第2項等)、注意が必要です。
 被相続人に実の子供がいる場合  1人まで
 被相続人に実の子供がいない場合 2人まで

→最高裁判決については、「節税目的の養親縁組についての最高裁判例」を参照(平成29年2月12日加筆)


死後事務~成年後見人にどこまで頼めるか~

 施設に入所していた人が死亡した場合、生前の療養費の支払い、入所施設内に残した動産類の処置、遺体の引取りやの火葬・埋葬などの対応が必要となります。相続人が対応してくれればよいのですが、そうでない場合、施設側が困ることがあると思います。
 このような場合、死亡した人に成年後見人が付いていた場合、施設側として、成年後見人にどこまで対応を求めることができるのでしょうか。

 成年被後見人、上記の場合は施設入所者(以下、「本人」といいます。)が死亡した場合、成年後見は当然に終了しますので、成年後見人は本人の法定代理人としての権限を失うことになるのが原則です。
 しかし、実際には、上記のように相続人が対応できない場合など、成年後見人が本人の死亡後も一定の死後事務を行うことを期待される場合があります。
 このような場合、従前は、応急処分(民法第874条、第654条)等の規定を活用して成年後見人が適宜対応をしてきたと思われますが、成年後見人が行える事務の範囲が必ずしも明確でなかったことから、どこまで対応するかについての判断は、成年後見人によって異なり得たものと思われます。

 この問題について、平成28年4月6日に「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し,同月13日に公布、去る10月13日から施行されました。
 この法律によって新設された民法第873条の2の条文の内容は、以下のとおりです。

第873条の2
 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)

 これにより、療養費の支払いのような弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の死後事務が成年後見人の権限に含まれることが、法文上、明確にされました。
 もっとも、民法第873条の2第3号の行為を行うにあたっては,家庭裁判所の許可を得る必要があります。東京家庭裁判所の窓口備置資料によると、許可が必要な行為の具体例は以下のとおりであるとされています。
①本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(葬儀に関する契約は除く。)
②債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し(振込により払い戻す場合を含む。)
③本人が入所施設等に残置した動産等に関する寄託契約の締結
④電気・ガス・水道の供給契約の解約 など
葬儀については、今回の改正法でも成年後見人の権限として規定されませんでした。もっとも、後見人がやむを得ず葬儀を行わなくてはならない場合には、事務管理(民法697条)としてその費用の支払が認められる可能性があることは、従前と同様です。

 そして、新設された民法873条の2条文にも明記されているように、成年後見人が同条の死後事務を行うためには、以下の要件をみたすことが必要です。
①本人が死亡したこと
②成年後見人が許可を要する行為を行う必要があること
③本人の相続人の意思に反することが明らかであるとの事情がないこと
④相続人が相続財産を管理し得る状況にないこと
 このうち、④の要件については、相続人が、病気で入院したり、長年音信不通の状態であるなどの理由により死後の事務ができ得る状況にないことを想定しているようであり、条文の文言からしても、成年後見人からの相続財産の引継ぎ方法について相続人間で揉めているような場合は想定していないものと思います。

 また、今回新設された死後事務の権限についての規定は、成年後見人を対象にするものであり、任意後見人や保佐人、補助人、未成年者の後見人は、対象外です。
 保佐人や補助人が死後事務を行う場合は、従前と同様、応急処分(民法第876条の5第3項、民法876条の10第2項、第654条)や事務管理(民法第697条)の規定を根拠に、その可否を判断することになります。


75歳以上の人口が子どもの人口を上回る

 1週間ほど前になりますが、2015年の国勢調査の確定値が公表されたとの報道がなされていました。
 総務省が公表した確定値によると、2015年10月1日時点で、外国人を含む日本の人口は約1億2709万人で2010年の前回の国勢調査からおよそ96万人減少し、このうち75歳以上の人口は約1612万人と総人口のおよそ8分の1を占めたのに対し、14歳以下の子どもの人口は約1588万人となり、前者が後者を初めて上回ったとのことです。過去の統計をみると、75歳以上の人口は1985年からの30年間で約3.4倍にも増加しているのに対し、14歳以下の子どもの人口は同じ期間で約40%も減少しているとのことです。
 このように少子高齢化に歯止めがかからない状況が続いていますが、注目すべき数字であると思ったのは、世帯数の増加です。人口が減少しているにもかかわらず、世帯数は約5344万世帯と過去最高を更新し、1人暮らしの単独世帯は約34.6%を占め、65歳以上のおよそ6人に1人が1人暮らしとのことです。

 このような少子高齢化や高齢者の単独世帯の増加などによる影響で、近年、法定相続人がおらず遺言ものこさないまま死亡し、死亡の知らせを受けた法定相続人でない親族や関係者が、彼らに相続権がないため遺産を処分することもできず、死後の住居の整理・退去や、葬儀・埋葬・供養などの対応に苦慮する事例も増えています。このような場合の対応方法については、「相続人がいない人の葬儀費用の支出」というテーマで述べたところです。
 孤独死をしているところを死亡後時間が経過してから発見される場合などもあり、今後、福祉の財源の問題とも絡んで、見守り体制をどのように確立していくかなど、社会全体で解決策を模索していかなければならない容易ならざる重要な課題であると思います。

 個人のレベルで何をしておくべきかという観点から考えると、まだ自分の頭がしっかりしており、動くことができるうちに、準備をしておくことに尽きると思います。「自分はまだ大丈夫だ。」と思って何も準備をしておかないまま時が経過し、結局、事が起こったときに、周囲の人が苦慮するという結果を招いている例も少なくないと思います。
 準備としては、遺言書を作成するのが最も普通の方法ですが、それ以外にも、死後事務委任契約(「死亡した後のことを誰かに頼みたい~死後事務委任契約」参照)や民事信託などの方法やこれらを組み合わせた方法もあります。ご自分の状況に最も適した方法による準備、対策を、専門家に相談するなどして、的確に講じておくことが望ましいと思います。