共同相続された預貯金債権は遺産分割の対象となるかについての最高裁判例

 当ブログの以前の記事(2016年10月27日「遺産分割協議をせずに銀行から預金を払い戻してもらうことはできるか?」、2016年10月31日「預貯金と遺産分割」)に関する最高裁判例(最高裁判所平成28年12月19日大法廷決定・平成27年(許)11号、裁判所時報1666号1頁、金融法務事情2058号6頁等)が出ており、従来の判例(最高裁平成16年4月20日第三小法廷判決・平成15年(受)第670号、裁判集民事214号13頁)が変更されましたので、遅ればせながら、フォローして紹介しておきたいと思います。

 事案は、被相続人の共同相続人同士の遺産の分割に関するものであり、共同相続人はそれぞれ、被相続人の弟の子でありAの養子、被相続人と養子縁組をした被相続人の妹(被相続人より先に死亡)の子です。
 被相続人は、平成24年3月に死亡し、不動産(価額は合計258万1995円)のほかに、250万円余りの日本円の預貯金債権、約36万ドルの外貨預金債権を有していましたが、共同相続人間で預貯金債権を遺産分割の対象に含める合意はされていませんでした。被相続人の妹は、被相続人から約5500万円の贈与を受けており、これは被相続人の妹の子(代襲相続)の特別受益に当たるとされています。

 原審(大阪高等裁判所平成27年3月24日決定・平成27年(ラ)75号、金融法務事情2059号19頁、金融・商事判例1508号21頁等)は、預貯金は、相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とならないとしました。

 これに対して、最高裁大法廷決定は、裁判官全員の一致で、大阪高裁の原決定を破棄して、本件を大阪高等裁判所に差し戻しています。

 最高裁決定の理由とするところは、木内道祥裁判官の補足意見にもあるように、「遺産分割の仕組みが共同相続人間の実質的公平を図ることを旨として相続により生じた相続財産の共有状態の解消を図るものであり、被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提に、預貯金が現金に極めて近く、遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて、本件で問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らし、上記各債権が共同相続人全員の合意の有無にかかわらず遺産分割の対象となるとしたものであると理解することができ」ます。

 より具体的には、以下のような判示がなされています。
・「遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、一般的には、遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望まし」い。
・「遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように、評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる。ところで、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては、本件で問題とされている預貯金が現金に近いものとして想起される。」
・「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。」
・「以上のような観点を踏まえて、改めて本件預貯金の内容及び性質を子細にみつつ、相続人全員の合意の有無にかかわらずこれを遺産分割の対象とすることができるか否かにつき検討する」と、
「普通預金契約及び通常貯金契約」については、「預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。」、「預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され、その後口座に入金が行われるたびに、各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に、入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは、預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり、その合理的意思にも反するとすらいえ」る。
「定期貯金債権について」は、「原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を払い戻すことができず、例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないものと定めている(59条、45条1項、2項)。同法が定期郵便貯金について上記のようにその分割払戻しを制限」されており、「定期貯金債権が相続により分割されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反する。他方、仮に同債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないのであるから、そのように解する意義は乏しい。」
・「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」

 このように、最高裁決定は、普通預金債権及び通常貯金債権を可分債権とする従来の判例を変更して、これを準共有債権として遺産分割の対象となるものと判示したものです。
 実質的な背景として、原審(大阪高裁決定)のような遺産分割の結果が、共同相続人の一方にとって極めて不利なものであるからそれを是正すべきとの考慮も多分にあったのではないかと推測されます。
 しかし、大橋正春裁判官の意見に示されているように、これで遺産分割の対象についての問題が全て解決したわけではなく、他の種類の債権については可分債権となり、不公平を生じる可能性が残っています。
 本最高裁決定が示す基準は、あくまで、遺産分割において被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいことを前提にしつつも、預貯金が現金に極めて近く、遺産分割における調整に資する財産であることなどを踏まえて、問題となっている各預貯金債権の内容及び性質に照らして遺産分割の対象となるとしているため、そのような性質を有しない他の債権については対象外とされる可能性があるからです。
 したがって、その意味では、共同相続人の一方からすれば、当事者の合意を前提に可分債権を遺産分割の対象とすることがかなりの範囲で行われている現在の家庭裁判所の実務にしたがった解決に頼らざるを得ない場面が、本最高裁決定後も少なからず残っているということができます。


節税目的の養親縁組についての最高裁判例

 当ブログの以前の記事(2016年11月9日「節税目的の養子縁組」)に関する最高裁判例(最高裁判所平成29年1月31日判決・平成28年(受)1255号、裁判所ウェブサイト掲載判例)が出ておりますので、フォローして紹介しておきたいと思います。

事案としては、亡Aの長女と二女が、亡Aの長男の子(つまり、亡Aの孫(平成23年生まれ))との養子縁組を、縁組をする意思を欠き無効であるとして争った事件です。
事実経過としては、亡Aは平成24年3月に妻と死別し、平成24年4月、長男夫婦と孫ともにに自宅を訪れた税理士等から、孫を養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受け、その後、養子となる孫の親権者として長男夫婦が、養親となる者として亡Aが、証人として亡Aの弟夫婦が、それぞれ署名押印して、養子縁組届に係る届書が作成され役所に提出されたというものです。

最高裁判決は、次のように判示して、養子縁組を有効としています。
・「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」
・「したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」
・「そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」

原審(東京高等裁判所平成28年2月3日判決・平成27年(ネ)5161号)は、「前記1に認定した諸事実を併せて考えれば、本件養子縁組は、専ら、税理士が勧めたA死亡の場合の相続税対策を中心としたAの相続人の利益のためになされたものにすぎず、Aや代諾権者であるB夫婦において、Aの生前にAと被控訴人との間の親子関係を真実創設する意思を有していなかったことは、明らかというべきである。」、「そうすると、・・・本件養子縁組は、Aや代諾権者であるB夫婦に真に養親子関係を創設する縁組意思がなかったことから無効といわざるを得ない。」と判断しており、事実認定をしたうえで縁組意思の存在を否定しています。私の読み方に誤解がなければ、東京高裁の判決は、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合でも、そのことの故に直ちに当事者間に縁組をする意思がないときに当たるとまでは言っていないように見えます。
そうだとすると、本件の最高裁判決は、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得ることを確認した上で、本件では縁組意思を認めた事例判決としての意味を有するものと思います。