国の相続

 今日はこどもの日ですが、新聞報道などによりますと、総務省が昨日発表した15歳未満の子どもの推計人口(4月1日現在)は1571万人で、前年の1588万人に比べて17万人減、1982年から36年連続で減少するとともに、総人口に占める子どもの割合は、前年比0.1ポイント減の12.4%で43年連続で低下しており、少子化の流れに歯止めがかかっていないということです。
 他方で、こちらは少し前(平成29年4月16日)の日経新聞の記事になりますが、「国の『相続』10年で2.5倍」、「遺産の国庫納付 年400億円」という内容のものがありました。相続案件が増える一方で、未婚率上昇や高齢化で受け取り手がいないケースが増えており、遺産が国庫納付され、亡くなった人の遺産を国が「相続」する金額が年間400億円超と、この10年間で2.5倍に拡大したとの内容です。

 遺産の国庫納付は、相続人不分明の場合に選任された相続財産管理人が、相続財産を管理、換価して、管理費用の支払いや相続債権者へ相続債務の弁済などを行った後、なお残余があって、相続人の存在も明らかにならず、特別縁故者への財産分与を行わないか若しくは行ってもなお残余があるときに行われます。
 金額については、裁判所の「省庁別財務書類」というものを見ると、平成27年度は、収納済歳入額のうち「諸収入」の中の「雑入」という項に42,083百万円という金額があり、注では「雑入」とは相続財産で相続人不存在のため国庫帰属となった収入金が主なものであるとの記載がなされています。同じ項の平成17年度の金額をみると16,858円となっていますから、上記新聞記事のとおり、2.5倍近くに増えています。
 これに関連する相続関係の家事事件の裁判所における新受件数は、裁判所が出している司法統計年報をみると、相続人不分明による相続財産管理人の選任等は、平成27年度が18,568件であるのに対し、平成17年度は10,736件となっており、約1.7倍の増加に過ぎません。相続放棄の申述受理の件数も、平成27年度189,381件、平成17年度149,375件と、約1.3倍の増加に過ぎませんから、相続人がいない場合に行き先のない遺産が残る割合が10年前よりも増加しているとみることができると思います。

 このような法制度において遺産の国庫帰属が増加していることに関して考えなければならないことは、個々の被相続人にとって自分の遺産が国庫に帰属するという事態が果たして被相続人の意思に合致しているのかということだと思います。
 国庫帰属になる場合は、被相続人に相続人がいないわけですが、大別すると、①被相続人に法定相続人はいるが全員が相続放棄をした場合と、②被相続人に最初から法定相続人がいない場合とがあります。

 ①の場合、法定相続人全員が相続放棄をするのは、通常は債務超過、つまり、遺産よりも相続債務の方が多いと判断し、債務を承継するのを避けるために行われることが多いと思われますが、実際にふたを開けてみると、遺産で全ての相続債務を弁済でき、残余が出るという場合もあります。近親者であっても被相続人の資産、負債の状況を正確には知らない場合もあるのでこのような事態が生じます。相続放棄をすべきかどうか判断に迷う場合は、3か月の期間という制限があるため時間的余裕はあまりないのが実情ですが、あわててやみくもに相続放棄を選択するのではなく、限定承認という方法も選択肢の一つとして検討すべきでしょう。

 ②の場合は、被相続人の生前においては、被相続人が自己の意思に基づいて、死後に遺産の承継や活用がなされるよう遺言書という形で意思を明示しておくべきでしょう。
 また、被相続人の死亡後においては、被相続人の法定相続人ではないものの被相続人と特別の縁故関係にあった者が相続財産の分与を申し立てることができる制度があります。長年内縁関係にあったなど、特別縁故者に相続財産の分与がなされることが被相続人の意思に合致するとみられる場合はまさにこの制度が予定しているものであり、積極的な活用がなされるべきでしょう。分与の認められるか否かや分与の額については家庭裁判所で判断がなされれますが、比較的柔軟な判断がなされているように感じています。
 司法統計年報でデータをみたところ、遺言書の検認は(公正証書遺言は含まれませんが)、平成27年度で16,888件、平成17年度で12,347件、特別縁故者への相続財産分与の申立は、平成27年度で1,043件、平成17年度で822件と遺産の国庫帰属に比べると、増加率は非常に少なく、必ずしも十分活用されていないように思います。


葬儀費用や相続税は遺産から支払いがされるか

1 葬儀費用
 葬儀費用は、民法885条の「相続財産に関する費用」として遺産から支払いがされるでしょうか。

 喪主を負担者とする考え方
 この点に関しては、法が祭祀の承継を相続とは別異に考えていることに対応して、葬儀費用の負担についても、実質的に葬式を実施した者(通常は喪主)の負担とする考え方があります。葬儀費用の一部負担とみうる香典が喪主に帰属するという解釈もこの考え方の根拠になります。
 東京地判昭和61年1月28日家月39巻8号48頁・判例時報1222号79頁は、次のように判示しています。
「相続財産に関する費用(民法885条)とは、相続財産を管理するのに必要な費用、換価、弁済その他清算に要する費用など相続財産についてすべき一切の管理・処分などに必要な費用をいうものと解されるのであつて、死者をとむらうためにする葬式をもつて、相続財産についてすべき管理、処分行為に当たるとみることはできないから、これに要する費用が相続財産に関する費用であると解することはできない。」
「また、民法306条3号、309条1項は、債務者の身分に応じてした葬式の費用については、その総財産の上に先取特権が存在する旨規定しているが、これは、貧者にも、死者の身分相応の葬式を営ましめようとの社会政策的な配慮から、身分相応の葬式費用については、その限度で、相続財産(遺産)が担保になる旨規定しているにすぎないと解すべきであつて、これをもつて、葬式費用が相続財産に関する費用であると解することも、まして、葬式費用の負担者が相続人であると解することもできない。しかも、仮に、この規定を右のように解するとすれば、身分相応の程度を超えた葬式費用については、規定していないこととなるから、この部分の費用を結局誰れが負担するかについては、また別個に根拠を求めざるを得ないし、たまたま、相続財産が充分に存在する場合は格別、相続財産が皆無か、あるいは、存在しても、身分に相応した葬式費用を負担するに足りないときは、右のように解するときは、かえつて、債権者に不測の損害を蒙むらせることとなり相当でない。また、葬式費用を身分に相応した部分とそうでない部分とに区別して、その負担者を別異に取扱うこととなるのも当を得ない。」
「相続税13条1項2号は、相続財産の価額から被相続人に係る葬式費用を控除した価額につき、相続税が課税される旨規定している。しかし、右は、葬式費用のうち、相続人の負担に属する葬式費用につき、控除する旨規定していることが明らかであつて、葬式費用を負担しない場合でも、相続財産の価額から葬式費用が当然に控除される旨規定しているものではない。したがつて、この規定をもつて、葬式費用が相続財産に関する費用であり、相続人が負担するものであると解する根拠とすることはできない。」
「葬式は、死者をとむらうために行われるのであるが、これを実施、挙行するのは、あくまでも、死者ではなく、遺族等の、死者に所縁ある者である。したがつて、死者が生前に自己の葬式に関する債務を負担していた等特別な場合は除き、葬式費用をもつて、相続債務とみることは相当ではない。そして、必ずしも、相続人が葬式を実施するとは限らないし、他の者がその意思により、相続人を排除して行うこともある。また、相続人に葬式を実施する法的義務があるということもできない。したがつて、葬式を行う者が常に相続人であるとして、他の者が相続人を排除して行つた葬式についても、相続人であるという理由のみで、葬式費用は、当然に、相続人が負担すべきであると解することはできない。」
「こうしてみると、葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担すると解するのが相当であるというべきである。そして、葬式を実施した者とは、葬式を主宰した者、すなわち、一般的には、喪主を指すというべきであるが、単に、遺族等の意向を受けて、喪主の席に座つただけの形式的なそれではなく、自己の責任と計算において、葬式を準備し、手配等して挙行した実質的な葬式主宰者を指すというのが自然であり、一般の社会観念にも合致するというべきである。したがつて、喪主が右のような形式的なものにすぎない場合は、実質的な葬式主宰者が自己の債務として、葬式費用を負担するというべきである。すなわち、葬式の主宰者として、葬式を実施する場合、葬儀社等に対し、葬式に関する諸手続を依頼し、これに要する費用を交渉・決定し、かつ、これを負担する意思を表示するのは、右主宰者だからである。そうすると、特別の事情がない限り、主宰者が自らその債務を葬儀社等に対し、負担したものというべきであつて、葬儀社等との間に、何らの債務負担行為をしていない者が特段の事情もなく、これを負担すると解することは、相当ではない。したがつて、葬式主宰者と他の者との間に、特別の合意があるとか、葬式主宰者が義務なくして他の者のために葬式を行つた等の特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、葬儀社等に対して、債務を負担した者が葬式費用を自らの債務として負担すべきこととなる。」

 相続財産の負担とする考え方
東京家審昭和33年7月4日家月10巻8号36頁などがあります。

 相続人に法定相続分に応じて分割承継されるとの考え方
 東京高決昭和30年9月5日家月7巻11号57頁などがあります。

 葬儀費用の負担は、このように裁判例においても見解が分かれている問題です。
 したがって、何の問題もなく遺産から支払われると考えるべきではありません。喪主の負担とする考え方の東京地判昭和61年1月28日家月39巻8号48頁・判例時報1222号79頁においても触れられていますが、相続税についての取扱い(相続税13条1項2号は、相続財産の価額から被相続人に係る葬式費用を控除した価額につき、相続税が課税される旨規定している。)とは異なる問題ですので、注意が必要です。
 もっとも、相続人間で合意して、遺産分割協議や遺産分割調停において、香典でカバーできない葬儀費用を相続財産から差し引いて遺産分割を行うことは可能です。なお、相続財産の負担とする考え方をとっても直ちに遺産分割審判の対象となるものではないことについては、「遺産にかかる固定資産税などは遺産から支払いがされるか」を参照。

法定相続人がいない人場合については「 相続人がいない人の葬儀費用の支出」を参照。

2 相続税
  相続税は、民法885条の「相続財産に関する費用」として遺産から支払いがされるでしょうか。
 相続税については、現行相続税法では遺産取得税方式がとられており(相続税法第2条)、
相続財産を取得した相続人個人に課される相続人の債務と考えられますので、遺産からの支払いはされないことになります。。
 相続税を「相続財産に関する費用」ではないとする裁判例としては、仙台家古川支審昭和38年5月1日家月15巻8号106頁があります。