遺産分割調停と当事者の出頭

 遺産分割協議は、当然のことですが相続人全員で行わなければ効力を生じません。

 相続人が複数おり、一部の相続人が任意の遺産分割協議に応じないときには、やむなく遺産分割調停の申立がなされることがあります。
 遺産分割調停事件の土地管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属するとされています(家事事件手続法245条1項)。相手方となる相続人が複数いる場合は、いずれかの相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所に申し立てらればよいことになるため、申し立てられた裁判所から遠隔地に他の相手方が居住している場合は、当該相手方にとっては毎回裁判所に出頭するのは負担が大きいことがあります。高齢な相続人が多数おり、一部で代襲相続が発生しているような場合には、各相続人の生活基盤が多様となっており、このような事態になることが少なからずあります。
 このような場合、一部の当事者が出頭しなくても調停を成立させることができるでしょうか。

電話会議システム
 家事事件手続法第54条1項は、家事審判手続において、家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる、同条2項は、家事審判の手続の期日に出頭しないで前項の手続に関与した者は、その期日に出頭したものとみなすと規定しており、これらの規定は家事調停手続に準用されています(家事事件手続法258条1項)。
 したがって、遺産分割調停手続では、当事者の一方のみならず、当事者双方が出頭しなくとも電話会議システムを利用して、遺産分割調停期日における手続を行うことができ、調停を成立させることもできます。
 もっとも、実際の調停の進行において、当事者本人が弁護士を代理人につけない状態で、電話会議システムを用いて調停手続を円滑に問題なく進められるかどうかという問題はあります。

調停条項案の書面による受諾
 家事事件手続法第270条1項は、当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会(裁判官のみで家事調停の手続を行う場合にあっては、その裁判官)から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が家事調停の手続の期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは、当事者間に合意が成立したものとみなすと規定しています。
 したがって、調停期日外のやりとりで調停条項案について合意ができてきており、出頭しない当事者が上記受諾書面を提出して調停が成立させることができれば、一部の当事者が出頭しなくても調停を成立させることができます。
 申立人が調停に出席できない当事者と期日外で連絡が取れ、成立させるべき調停内容に争いがないような場合に有用な方法です。

調停に代わる審判
 家事事件手続法第284条1項は、家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(調停に代わる審判という)をすることができると規定しています。
 審判は、裁判所の判断であり、特別の定めがある場合を除き、当事者及び利害関係参加人並びにこれらの者以外の審判を受ける者に対し、相当と認める方法で告知すればよく(家事事件手続法258条1項、74条)、通常は審判書を送達することにより告知されますので、当事者が期日に出頭することは不要です。
 この制度は、家事事件手続法において初めて、遺産分割事件において認められることになった制度です。
 調停に代わる審判が活用できるのは、不出頭の当事者も含めて合意が概ねできている場合や、解決内容について反対はしないものの手続には不熱心で協力しない当事者がいるため調停手続が進められない場合などがあげられます。

代理人の選任
 家事事件手続法第22条は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ手続代理人となることができない、ただし、家庭裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を手続代理人とすることができると規定しています。
 したがって、当事者本人が調停期日に出頭できなくても、弁護士を手続代理人に選任し、弁護士が調停期日に出頭して調停を成立させることが可能です。
 手続代理人となれるのは、原則として弁護士ですが、家庭裁判所の許可を得れば、弁護士以外が手続代理人となることができます。本人が高齢や病気等で出頭が難しい場合に同居している親族が裁判所の許可を受けて代理人になるような場合が考えられます。