遺産分割前の共有持分権の譲渡と共有関係の解消

 遺産分割前の共有関係の解消の解消については、共有物分割請求(民法258条)が許されず、遺産分割の審判手続によらなければならないとするのが確定した最高裁判例です(最判昭和62年9月4日最高裁判所裁判集民事151号645頁)。この最高裁の判決は、「遺産相続により相続人の共有となつた財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によつてこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。」としています。

 それでは、遺産分割前に一部の共同相続人が相続による共有持分権を共同相続人以外の第三者に譲渡した場合、その第三者から共有関係の解消を求める場合はどうでしょうか。
 遺産分割審判によるべきか、共有物分割請求によるべきかという問題です。

 この問題については、最判昭和50年11月7日・民集29巻10号1525頁が、共有物分割請求によるべきとする結論を出しており、実務上はこの取扱いが定着しているとみられるところです。

 この最高裁の判決は、過去の最高裁判決を摘示して、
(ⅰ)共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法249条以下に規定する共有としての性質を有すると解するのが相当であること(最判昭和30年5月31日・民集9巻6号793頁)、
(ⅱ)共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができること(最判昭和38年2月22日・民集17巻1号235頁)、
を前提に理由付けを述べています。

 そのうえで、以下のように詳細に理由を述べています。
(ⅲ)共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について共有持分権を譲り受けた第三者は、他の共同相続人とともに当該不動産を共同所有する関係にたつが、その共同所有関係は民法249条以下の共有としての性質を有する、
(ⅳ)共同相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解すべきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければならないものではない、
(ⅴ)遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従つて分割することを目的とするものであるから、本来共同相続人という身分関係にある者または包括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者の申立に基づき、これらの者を当事者とし、原則として遺産の全部について進められるべきものである、
(ⅵ)第三者が共同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保護のためには第三者にも遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続に関与させることが必要となるが、遺産分割審判は、共同相続人に対して全遺産を対象とし、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであつて、その方法も多様であるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則とすべきものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これらはかならずしも同一手続によつて処理されることを必要とするものでも、またこれを適当とするものでもない、
(ⅶ)第三者に対し、遺産分割審判手続上の地位を与えることは遺産分割の本旨にそわず、遺産分割審判手続を複雑にし、共同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得した権利とはなんら関係のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえでなければ分割を受けることができないという著しい負担をかけることがありうる、
(ⅷ)これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであるから、第三者の分割目的を達成するために適切であるということができるうえ、当該不動産のうち共同相続人の一人が第三者に譲渡した持分部分を除いた残余持分部分は、なお遺産分割の対象とされるべきものであり、第三者が右持分権に基づいて当該不動産につき提起した共有物分割訴訟は、結局、当該不動産を第三者に対する分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割することを目的とするものであつて、右分割判決によつて共同相続人に分与された部分は、なお共同相続人間の遺産分割の対象になるものと解すべきであるから、右分割判決が共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することはないということができる、
(ⅸ)このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同相続人の利益の調和をはかるとの見地からすれば、分割手続としては共有物分割訴訟をもつて相当とすべきである、
として、第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法907条に基づく遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当であると判示しています。

なお、実際の実務上では、遺産分割審判に第三者を利害関係人として参加させて分割審判を行うこともあるようです。


遺産分割と不動産の賃料の帰属

 遺産分割の対象となった不動産から得られた賃料収入について、相続開始時から遺産分割によって不動産の帰属が決まるまでの賃料債権が誰に帰属するかという問題があります。

 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ、 各相続人が分割によって取得した財産は、 相続開始時に被相続人から直接承継したことになります(遺産分割の遡及効、民法909条)。
 この遺産分割の遡及効や賃料収入などの法定果実が遺産にあたるかという問題などから、頭書の問題については、大別して、
(ⅰ)不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時に遡って遺産分割により不動産を取得した相続人に帰属するという考え方、
(ⅱ)不動産から生じた賃料債権は、遺産分割の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属するという考え方、
があり得ます。

 この問題については、最高裁判決(最判平成17年9月8日・民集59巻7号1931頁)が結論を出しています。

 この最高裁判決の原審である大阪高判平成16年4月9日・民集59巻7号1946頁は、以下のように判示し、上記(ⅰ)の結論をとりました(以下は、上記最高裁判決の判示中の原審の判示内容の要約)。
 「遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属する」
 大阪高裁の判決は、
①遺産から生ずる賃料等の法定果実はそれ自体は遺産ではない、
②遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属する、
③遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる、
との理論構成によって成り立っています。

 しかし、最高裁判決は以下のように判示して、上記(ⅱ)の結論をとっています。
 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」
 最高裁判決は、
①遺産から生じた相続開始から遺産分割までの間の賃料等の果実は、相続開始によって共有となった遺産を使用管理した結果得られるものであり、遺産とは別個の共同相続人の共有財産である、
②賃料債権は可分債権であるから当然に分割されて、共同相続人が遺産の共有持分である法定相続分に応じて分割単独債権として取得する、
③分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は後になされた遺産分割の効力を受けない、
との理論構成によって成り立っています。
 この最高裁判決により、この問題については、上記(ⅱ)の考え方によることで実務上決着がついたといえます。