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生命保険金と相続(2)~生命保険金は特別受益か?

 前回(生命保険金と相続(1))、生命保険金は、法律上、相続財産に含まれないという話しをしましたが、相続人の中に生命保険金を受け取った相続人がいる場合、他の相続人との公平の観点から、生命保険金を民法903条の特別受益としていったん相続財産に持ち戻して具体的相続分の計算すべきかどうかという問題があります。

 例えば、相続人がAとBの2人で法定相続分はそれぞれ2分の1ずつ、生命保険金2000万円をAが受け取った、生命保険金以外の相続財産が2000万円という事例を考えてみましょう。
 生命保険金2000万円の受領が特別受益にならないとすると、持戻しはしませんから、2000万円の相続財産をAとBとでそれぞれ2分の1ずつ、つまり、それぞれ1000万円ずつ分けることになりますから、これらにAによる生命保険金2000万円の取得を加えると、Aが3000万円、Bは1000万円を取得することになります。
 これに対して、生命保険金2000万円の受領が特別受益になるとすると、2000万円の生命保険金を持ち戻すことになるため、計算上、相続財産は4000万円となります。これをAとBとでそれぞれ2分の1ずつ、つまり、それぞれ2000万円ずつ分けることになりますが、既にAは2000万円の生命保険金を受け取っていますから、新たに取得できる相続財産はなく、結局、生命保険金を含めて、Aが2000万円、Bも2000万円を取得することになります。
 このように生命保険金の額によっては、持戻しを認めるかどうかによって、最終的に各相続人が取得できる額に大きな差が出てくることもあります。

 生命保険金の受領が特別受益にあたるかどうかについては、以前は争いがあったところですが、最高裁判所平成16年10月29日決定(民集58巻7号1979頁)がこの問題について判断を示しました。

 まず、特別受益(民法903条の遺贈又は生計の資本としての贈与)にあたるかどうかについては、次のように原則論を述べています。
 
 「被相続人が自己を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人と指定して締結した養老保険契約に基づく死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産に属するものではないというべきである(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)。」

 「また、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから、実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない(最高裁平成11年(受)第1136号同14年11月5日第一小法廷判決・民集56巻8号2069頁参照)。」

 「したがって、上記の養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。」

 しかし、一方で、以下のように例外を認めています。

 「もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。」

 では、上記の例外にいう「特段の事情」が認められる場合はどのような場合かというと、以下のように判示しています。

 「上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」

 このように、特段の事情があるとして例外的場合にあるとしても、では一体そのような場合がこれにあたるかどうかという点については、誰が見ても明らかであるといえるような画一的な基準があるわけではなく、個々の事案によって異なってきます。
 したがって、遺産分割において、多額の生命保険金の受取りが判明し、この点が争いになった場合は、相続人間に著しい不公平があると評価すべき特段の事情があるとして特別受益の主張をするにしても、逆に、そのような主張をされた場合に反論をするにしても、上記の各要素にそくして事実関係を具体的に指摘して主張や反論をすることが重要となってきます。


生命保険金と相続(1)~生命保険金は相続財産か?

 法律上の取扱いと税務上の取扱いの異なる場面として、被相続人を被保険者として生命保険がかけられていた場合に、被相続人が死亡したことにより支払われる死亡保険金の取り扱いがあります。

 死亡保険金が相続財産に含まれるのかという問題があります。

 法律上の取り扱いについては、最高裁判所の判例によって、相続財産ではないということで確定しています。

 最高裁昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁)は、被相続人が自己を保険契約者・被保険者として、相続人の一部の者を保険金受取人と指定した保険契約の死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するものであって、保険契約者や被保険者から承継取得するものではないから、これらの者の相続財産に属するものではないとしています。

 なお、これと関係しますが、最高裁平成14年11月5日判決(民集56巻8号2069頁)は、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないことから、実質的に保険契約者や被保険者の財産に属していたものとみることはできないので、民法1031条に規定する遺贈又は贈与にあたるものではなく、これに準ずるものともいえないので、遺留分減殺の対象にもならないとしています。

 これに対して、税務上の取扱いでは、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。

 被相続人が保険料を支払っていた生命保険金は、本来の相続財産ではないため遺産分割の対象とはならないものの、相続税法上のみなし相続財産とされ、保険契約上の受取人が相続又は遺贈により取得したとみなされ、相続税の課税の対象となります(相続税法3条)。
 つまり、本来の相続財産ではないが、税法上の取扱いで相続財産とみなし、相続税を課税するということです。
 相続税が課税されるのは、被保険者と保険料の負担者が同一人の場合です。
 受取人が被保険者の相続人であるときは相続により取得したものとみなされ、相続人以外の者が受取人であるときは遺贈により取得したものとみなされることになります。

 ただ、生命保険金は遺産分割の対象となるものではないため、相続税の課税の方式も、他の相続財産とは異なってきます。
 死亡保険金の受取人が相続人である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額が、非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を超えるときは、その超える部分が相続税の課税対象になります。
 他方、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。

 生命保険会社は、死亡保険金を支払ったときは、支払調書を税務署に提出しているようです。


保険金受取人が死亡していた場合の保険金の支払い

 例えば、父Aと子B2人の家族で、子Bが自分を被保険者として、受取人を父Aとする生命保険を契約していたとします。ところが、先に父Aが死亡して、その後、受取人の変更手続しないまま、子Bも死亡したときに、保険金受取人は誰になるのかという問題があります。なお、子Bにはその死亡時に相続人はおらず、父Aにはその死亡時に第2順位の相続人とし姉C(子Bからみれば伯母)がいたとします。
 生命保険の約款では、「死亡保険金受取人の死亡時以後、死亡保険金受取人の変更が行われていない間に保険金の支払事由が発生したときは、死亡保険金受取人の死亡時の法定相続人(法定相続人のうち死亡している者があるときは、その者については、その順次の法定相続人)で保険金の支払事由の発生時に生存している者を死亡保険金受取人とします。」との規定が設けられていることが多いです。
 そして、このような場面で、ほかに身寄りのない子Bの葬儀やその後の法事などを伯母Cが自らの費用で執り行った場合に、伯母Cは死亡保険金を受け取ってそれを葬儀や法事などの費用にあてられるかという問題が生じます。
 この問題については、名古屋地裁の平成12年12月1日の判決(金融商事判例1110号51頁)があり、その判決の判旨を、本件に引き直していえば、保険金受取人である父Aの死亡時における相続順位(第1順位は子Bとなります)とは異なる第2順位の相続人又はその順次の法定相続人に保険金を取得させるのが、保険契約者の通常の意思であるとまではいえないこと、その他保険契約者の債権者の利益なども考慮して、保険金受取人父Aの第2順位の相続人である伯母Cは保険金受取人となれないとしています。
 実務上の取扱いは、ほとんどの保険会社が、このような事例の場合は、保険金受取人父Aの第1順位の相続人である子Bの順次の法定相続人がいないため、保険金受取人不存在の場合として、保険契約者である子Bが保険金受取人を兼ねることとなり、死亡保険金は子Bの相続財産に帰属するとして、相続財産管理人へ支払いがなされているようです。私も相続財産管理人としてこのような事例の処理をしたことがあります。
 それでは、伯母Cは葬儀や法事等の費用の支払いを受けられないかというと、支出内容が相当なものであれば、支出したことを証する資料に基づいて、相続財産管理人が管理している相続財産(この中には死亡保険金も含まれます)の中から、相続財産管理人に裁判所の許可を受けて払い出しをしてもらうことが可能です。
 そのためには、まず、裁判所に相続財産管理人選任の申立てをすることが必要となります。