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相続人の中に認知症の人、行方不明者がいて遺産分割ができないとき

 Aが死亡して、相続が開始しました。
 図のように、Aの相続人は、Aの妻であるBと、AとBの子であるC、D、Eであるとします。遺言書はないとします。

 この場合、相続人であるB、C、D、Eで遺産分割をすることになりますが、Bは認知症で判断能力はなく、Cは行方不明だとすると、そのままでは遺産分割ができません。しかし、このような場合でも、B、Cが相続人であることには変わりがありません。
 遺産分割を進めるためには、どうしたらよいのでしょうか。

 B、Cと順番に検討していきます。

1 認知症で判断能力がない場合について(Bについて)
 Bが認知症で判断能力がない場合は、有効な遺産分割ができません。

 Bに成年後見人をつける必要があります。
 だまっていても自動的に成年後見人が選任されるわけではありませんから、誰かが家庭裁判所に申立をすることになります。
 遺産分割を行うために申立をするわけですから、通常は、遺産分割を進めようとする他の相続人が申立をすることになるでしょう。
 上の図では、DがBの成年後見人に選任されている場合を書きましたが、そうでない場合は、DかEが成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てることになるでしょう。

 相続人であるDやE以外の人、例えば、YがBの成年後見人に選任された場合は、YがBの法定代理人として遺産分割を行うことになります。

 しかし、上の図のように、既にDがBの成年後見人に選任されていた場合など、DがBの成年後見人になった場合は、DがBの成年後見人(法定代理人)として遺産分割を行うことは、一方で、Dは自ら相続人として遺産分割を行う立場にあることから、利益相反の問題を生じます。
 したがって、このような場合は、以下のようになります。
(1)後見監督人が選任されている場合
 後見監督人が遺産分割を行います。
(2)後見監督人が選任されていない場合
 成年後見人であるDは、家庭裁判所に遺産分割のための特別代理人の選任の申立てを行い、選任された特別代理人が遺産分割を行うことになります。
(民法第860条ただし書き、第826条第1項、第851条第四号)

 成年後見人や特別代理人の選任の申立手続については、遺産分割について委任している弁護士がいる場合には、その弁護士に遺産分割にかかわる事務処理の一つとして委任することができます。
  
 同じような利益相反の状況は、相続人の中に未成年者の子とその親権者である親がいる場合にも生じます。この場合も、親権者である親は、未成年者である子のために、家庭裁判所に遺産分割のための特別代理人の選任の申立てを行い、選任された特別代理人が遺産分割を行うことになります(民法第826条第1項)。

 関係する条文は以下のようになっています。
民法第826条第1項
 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
民法第860条 
 第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
民法第851条 
 後見監督人の職務は、次のとおりとする。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。

2 行方不明の場合について(Cについて)
 相続人の中に、Cのように行方不明の人がいる場合には、遺産分割ができません。
 この場合は、Cを不在者として、他の相続人であるDやEが家庭裁判所不在者財産管理人選任申立を行います。この場合、選任された不在者財産管理人はCの法定代理人として、裁判所の許可(権限外行為許可といいます。)を受けたうえで、遺産分割を行うことになります。

 関係する条文は以下のようになっています。
民法第25条第1項
 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
民法第28条 
 管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
民法第103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

 不在者財産管理人の選任の申立手続についても、遺産分割について委任している弁護士がいる場合には、その弁護士に遺産分割にかかわる事務処理の一つとして委任することができます。


遺産分割前の共有持分権の譲渡と共有関係の解消

 遺産分割前の共有関係の解消の解消については、共有物分割請求(民法258条)が許されず、遺産分割の審判手続によらなければならないとするのが確定した最高裁判例です(最判昭和62年9月4日最高裁判所裁判集民事151号645頁)。この最高裁の判決は、「遺産相続により相続人の共有となつた財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によつてこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。」としています。

 それでは、遺産分割前に一部の共同相続人が相続による共有持分権を共同相続人以外の第三者に譲渡した場合、その第三者から共有関係の解消を求める場合はどうでしょうか。
 遺産分割審判によるべきか、共有物分割請求によるべきかという問題です。

 この問題については、最判昭和50年11月7日・民集29巻10号1525頁が、共有物分割請求によるべきとする結論を出しており、実務上はこの取扱いが定着しているとみられるところです。

 この最高裁の判決は、過去の最高裁判決を摘示して、
(ⅰ)共同相続人が分割前の遺産を共同所有する法律関係は、基本的には民法249条以下に規定する共有としての性質を有すると解するのが相当であること(最判昭和30年5月31日・民集9巻6号793頁)、
(ⅱ)共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について共有持分権を譲り受けた第三者は、適法にその権利を取得することができること(最判昭和38年2月22日・民集17巻1号235頁)、
を前提に理由付けを述べています。

 そのうえで、以下のように詳細に理由を述べています。
(ⅲ)共同相続人の一人から遺産を構成する特定不動産について共有持分権を譲り受けた第三者は、他の共同相続人とともに当該不動産を共同所有する関係にたつが、その共同所有関係は民法249条以下の共有としての性質を有する、
(ⅳ)共同相続人の一人が特定不動産について有する共有持分権を第三者に譲渡した場合、当該譲渡部分は遺産分割の対象から逸出するものと解すべきであるから、第三者がその譲り受けた持分権に基づいてする分割手続を遺産分割審判としなければならないものではない、
(ⅴ)遺産分割審判は、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従つて分割することを目的とするものであるから、本来共同相続人という身分関係にある者または包括受遺者等相続人と同視しうる関係にある者の申立に基づき、これらの者を当事者とし、原則として遺産の全部について進められるべきものである、
(ⅵ)第三者が共同所有関係の解消を求める手続を遺産分割審判とした場合には、第三者の権利保護のためには第三者にも遺産分割の申立権を与え、かつ、同人を当事者として手続に関与させることが必要となるが、遺産分割審判は、共同相続人に対して全遺産を対象とし、遺産全体の価値を総合的に把握し、これを共同相続人の具体的相続分に応じ民法906条所定の基準に従いつつこれを全体として合目的的に分割すべきであつて、その方法も多様であるのに対し、第三者に対しては当該不動産の物理的一部分を分与することを原則とすべきものである等、それぞれ分割の対象、基準及び方法を異にするから、これらはかならずしも同一手続によつて処理されることを必要とするものでも、またこれを適当とするものでもない、
(ⅶ)第三者に対し、遺産分割審判手続上の地位を与えることは遺産分割の本旨にそわず、遺産分割審判手続を複雑にし、共同相続人側に手続上の負担をかけることになるうえ、第三者に対しても、その取得した権利とはなんら関係のない他の遺産を含めた分割手続の全てに関与したうえでなければ分割を受けることができないという著しい負担をかけることがありうる、
(ⅷ)これに対して、共有物分割訴訟は対象物を当該不動産に限定するものであるから、第三者の分割目的を達成するために適切であるということができるうえ、当該不動産のうち共同相続人の一人が第三者に譲渡した持分部分を除いた残余持分部分は、なお遺産分割の対象とされるべきものであり、第三者が右持分権に基づいて当該不動産につき提起した共有物分割訴訟は、結局、当該不動産を第三者に対する分与部分と持分譲渡人を除いた他の共同相続人に対する分与部分とに分割することを目的とするものであつて、右分割判決によつて共同相続人に分与された部分は、なお共同相続人間の遺産分割の対象になるものと解すべきであるから、右分割判決が共同相続人の有する遺産分割上の権利を害することはないということができる、
(ⅸ)このような両手続の目的、性質等を対比し、かつ、第三者と共同相続人の利益の調和をはかるとの見地からすれば、分割手続としては共有物分割訴訟をもつて相当とすべきである、
として、第三者が右共同所有関係の解消を求める方法として裁判上とるべき手続は、民法907条に基づく遺産分割審判ではなく、民法258条に基づく共有物分割訴訟であると解するのが相当であると判示しています。

なお、実際の実務上では、遺産分割審判に第三者を利害関係人として参加させて分割審判を行うこともあるようです。


遺産分割と不動産の賃料の帰属

 遺産分割の対象となった不動産から得られた賃料収入について、相続開始時から遺産分割によって不動産の帰属が決まるまでの賃料債権が誰に帰属するかという問題があります。

 遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ、 各相続人が分割によって取得した財産は、 相続開始時に被相続人から直接承継したことになります(遺産分割の遡及効、民法909条)。
 この遺産分割の遡及効や賃料収入などの法定果実が遺産にあたるかという問題などから、頭書の問題については、大別して、
(ⅰ)不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時に遡って遺産分割により不動産を取得した相続人に帰属するという考え方、
(ⅱ)不動産から生じた賃料債権は、遺産分割の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属するという考え方、
があり得ます。

 この問題については、最高裁判決(最判平成17年9月8日・民集59巻7号1931頁)が結論を出しています。

 この最高裁判決の原審である大阪高判平成16年4月9日・民集59巻7号1946頁は、以下のように判示し、上記(ⅰ)の結論をとりました(以下は、上記最高裁判決の判示中の原審の判示内容の要約)。
 「遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属する」
 大阪高裁の判決は、
①遺産から生ずる賃料等の法定果実はそれ自体は遺産ではない、
②遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属する、
③遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる、
との理論構成によって成り立っています。

 しかし、最高裁判決は以下のように判示して、上記(ⅱ)の結論をとっています。
 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」
 最高裁判決は、
①遺産から生じた相続開始から遺産分割までの間の賃料等の果実は、相続開始によって共有となった遺産を使用管理した結果得られるものであり、遺産とは別個の共同相続人の共有財産である、
②賃料債権は可分債権であるから当然に分割されて、共同相続人が遺産の共有持分である法定相続分に応じて分割単独債権として取得する、
③分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は後になされた遺産分割の効力を受けない、
との理論構成によって成り立っています。
 この最高裁判決により、この問題については、上記(ⅱ)の考え方によることで実務上決着がついたといえます。


遺産分割調停と当事者の出頭

 遺産分割協議は、当然のことですが相続人全員で行わなければ効力を生じません。

 相続人が複数おり、一部の相続人が任意の遺産分割協議に応じないときには、やむなく遺産分割調停の申立がなされることがあります。
 遺産分割調停事件の土地管轄は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属するとされています(家事事件手続法245条1項)。相手方となる相続人が複数いる場合は、いずれかの相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所に申し立てらればよいことになるため、申し立てられた裁判所から遠隔地に他の相手方が居住している場合は、当該相手方にとっては毎回裁判所に出頭するのは負担が大きいことがあります。高齢な相続人が多数おり、一部で代襲相続が発生しているような場合には、各相続人の生活基盤が多様となっており、このような事態になることが少なからずあります。
 このような場合、一部の当事者が出頭しなくても調停を成立させることができるでしょうか。

電話会議システム
 家事事件手続法第54条1項は、家事審判手続において、家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる、同条2項は、家事審判の手続の期日に出頭しないで前項の手続に関与した者は、その期日に出頭したものとみなすと規定しており、これらの規定は家事調停手続に準用されています(家事事件手続法258条1項)。
 したがって、遺産分割調停手続では、当事者の一方のみならず、当事者双方が出頭しなくとも電話会議システムを利用して、遺産分割調停期日における手続を行うことができ、調停を成立させることもできます。
 もっとも、実際の調停の進行において、当事者本人が弁護士を代理人につけない状態で、電話会議システムを用いて調停手続を円滑に問題なく進められるかどうかという問題はあります。

調停条項案の書面による受諾
 家事事件手続法第270条1項は、当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合において、その当事者があらかじめ調停委員会(裁判官のみで家事調停の手続を行う場合にあっては、その裁判官)から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が家事調停の手続の期日に出頭して当該調停条項案を受諾したときは、当事者間に合意が成立したものとみなすと規定しています。
 したがって、調停期日外のやりとりで調停条項案について合意ができてきており、出頭しない当事者が上記受諾書面を提出して調停が成立させることができれば、一部の当事者が出頭しなくても調停を成立させることができます。
 申立人が調停に出席できない当事者と期日外で連絡が取れ、成立させるべき調停内容に争いがないような場合に有用な方法です。

調停に代わる審判
 家事事件手続法第284条1項は、家庭裁判所は、調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のため必要な審判(調停に代わる審判という)をすることができると規定しています。
 審判は、裁判所の判断であり、特別の定めがある場合を除き、当事者及び利害関係参加人並びにこれらの者以外の審判を受ける者に対し、相当と認める方法で告知すればよく(家事事件手続法258条1項、74条)、通常は審判書を送達することにより告知されますので、当事者が期日に出頭することは不要です。
 この制度は、家事事件手続法において初めて、遺産分割事件において認められることになった制度です。
 調停に代わる審判が活用できるのは、不出頭の当事者も含めて合意が概ねできている場合や、解決内容について反対はしないものの手続には不熱心で協力しない当事者がいるため調停手続が進められない場合などがあげられます。

代理人の選任
 家事事件手続法第22条は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ手続代理人となることができない、ただし、家庭裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を手続代理人とすることができると規定しています。
 したがって、当事者本人が調停期日に出頭できなくても、弁護士を手続代理人に選任し、弁護士が調停期日に出頭して調停を成立させることが可能です。
 手続代理人となれるのは、原則として弁護士ですが、家庭裁判所の許可を得れば、弁護士以外が手続代理人となることができます。本人が高齢や病気等で出頭が難しい場合に同居している親族が裁判所の許可を受けて代理人になるような場合が考えられます。


遺産にかかる固定資産税などは遺産から支払いがされるか

 被相続人が死亡した後、共同相続人のうちの1人が、例えば、遺産に属する不動産の固定資産税を支払ったりしながら、遺産分割までの間、遺産を管理している場合があります。
 このような場合、共同相続人のうちの1人が遺産の管理のために支払った費用は後日、遺産から支払われるのでしょうか。

 これに関する条文としては民法885条1項があり、それによれば「相続財産に関する費用は、その財産の中から、これを支弁する。」と規定されています。
 ここにいう「相続財産に関する費用」とは、相続財産の管理や清算に必要な費用のことを意味し、遺産分割前の共同相続財産の管理(民法898条、252条)も相続財産の管理にあたります。

 「相続財産に関する費用」として認められるものに関して、以下のような裁判例があります。

 土地建物の固定資産税、借地料、電気料金、水道料金、火災保険料、下水道使用料
 大阪高決昭和41年7月1日家月19巻2号71頁は、これらの費用は相続財産の管理に必要な費用であり、相続財産に関する費用として相続財産から支弁すべきものであるから、分割すべき相続財産およびその収益の額を算定するにあたっては、当然これらのような管理の費用を控除しなければならないとしています。

 借地の賃料、建物の増改築修繕費、公租公課
 東京高決昭和54年3月29日家月31巻9号21頁は、これらの遺産分割までの遺産の管理費用については、民法885条の規定が適用されるべきものと解するのが相当であり、遺産が分割されるときには、特別の事情がない限り、これに付随するものとして同時に清算することができるものと解するのが相当であるとしています。

 固定資産税、土地改良費、建物・畑の管理費
 東京高決昭和54年6月6日家月32巻3号101頁・判例時報937号42頁は、これは、民法885条1項、259条1項により第1次的には相続財産の負担に帰し遺産分割の際考慮の対象とすべきであるとしています。

 もっとも、「相続財産の管理費用」を遺産分割手続において清算することができるかについては、実務上必ずしも上記の裁判例のように肯定されているわけではないと思います。
 大阪高決昭和58年6月20日判タ506号186頁は、固定資産税などの「相続財産の管理費用」は、その相続分に応じて共同相続人が負担すべきもので、仮に相続人の1人が他の相続人のために相続債務や相続財産の管理費用を立て替え支払ったとしても、その償還請求権は遺産分割とは別途に行使すべきであるとしています。これによれば、遺産分割手続とは別に民事訴訟で解決することになります。
 なお、これに関連して、最高裁判所平成17年9月8日判決民集59巻7号1931頁
が次のように判示しています。
 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 遺産分割手続において「相続財産の管理費用」を清算できないとすると、遺産を分ける制度である遺産分割審判においては、当事者間で合意しても「相続財産の管理費用」の清算を遺産分割審判の対象とすることはできないことになります。もっとも、その場合でも、遺産分割調停において当事者間の合意で「相続財産の管理費用」の清算を含めて遺産分割調停を行うことは可能です。