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「相続させる」趣旨の遺言と民法(相続法)の改正(2)


 「相続させる」趣旨の遺言について、平成30年7月6日に成立した改正民法が、従前の判例を変更をしていわゆる対抗要件主義を採用したのは、「相続させる」趣旨の遺言と民法(相続法)の改正(1)で述べたとおりです。

 これを受けて、今回の改正民法で、遺言執行者がいる場合、遺言執行者の権限についても従前の判例を変更する改正がありました。

 過去の最高裁判所の判例では、「相続させる」趣旨の遺言に関して、その対象の不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しないとしていました。
 平成11年12月16日の最高裁判所の判決(民集53巻9号1989頁)は、以下のように判示しています。
 「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。・・・(中略)・・・もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法27条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成3年(オ)第1057号同7年1月24日第三小法廷判決・裁判集民事174号67頁参照)。」
 平成3年の最高裁判決以降、不動産の登記実務は上記のような考えに沿った運用をしていたということです。

 しかし、今回の改正では、このような判例を変更し、「相続させる」趣旨の遺言について、以下のような規定を設けました。

第1014条第2項 
 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

 このように「相続させる」という表現のある遺言においても、遺言執行者が対抗要件を備えるための行為(例えば、不動産の登記手続をすることなど)を行うことができるようになりました。このような規定ができたことにより、遺言執行者がいる場合は円滑に手続が進むことが期待できます。
 もっとも、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従います(改正民法第1014条第4項)。

 そして、預貯金については、平成28年12月19日の最高裁決定(判例変更)により遺産分割の対象に含まれることになり、相続人単独では預貯金の払戻しができなくなりましたが(ただし、改正民法では、預貯金の一定割合について仮払いを認める制度を設けました。)、預貯金についても改正民法は、以下のように遺言執行者の権限を認める規定を設けました。

第1014条第3項
 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
 
 預貯金債権については、それを遺産分割の対象とする最高裁判所の判例変更と遺言者の通常の意思を踏まえ、対抗要件についての権限にとどまらず、払戻しや解約の申入れなどの一定の処分権限も遺言執行者の権限としたものです。これについても遺言執行者がいる場合には円滑に手続が進むことが期待できます。
 もっとも、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従うことは対抗要件の場合と同じです(改正民法第1014条第4項)。

 また、改正民法は、遺言執行者の権限の明確化等のため、上記のほか、以下の内容の規定も設けました。
 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(第1007条第2項)。
 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(第1012条第2項)。
 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(第1015条)。

 遺言が適正かつ円滑に執行されるために、遺言執行者の選任とその任務の遂行がますます重要になっています。


「相続させる」趣旨の遺言と民法(相続法)の改正(1)

 「遺言者の長男Aに甲土地及び乙建物を相続させる。遺言者の二男Bに丙土地を相続させる。」など、「相続させる」という表現の遺言がよくみられます。
 これは、いわゆる「相続させる」趣旨の遺言と言われ、平成30年7月6日に成立した改正民法では、「特定財産承継遺言」(遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言、第1014条第1項)と呼ばれています。

 このような「相続させる」との表現のある遺言の法律的効果については、平成3年4月19日の最高裁判決(民集45巻4号477頁)があり、そのポイントは、以下のとおりです。
1 遺産分割方法の指定である
 この最高裁判決は、以下のように述べています。
 「遺言書において特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の『相続させる』趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の『相続させる』趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であ」る。
2 遺産分割協議や家庭裁判所の審判を経ずに被相続人の死亡時に権利が承継される
 この最高裁判決はまた、以下のように述べています。
 「他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。」

 このような「相続させる」との表現がなされている遺言の法的効果を前提として、平成14年6月10日の最高裁判決(裁判集民事206号445頁) は、次のように判示しました。
 「相続させる」趣旨の遺言によって相続人が取得した不動産の権利移転は登記なくして第三者に対抗することができる
 この最高裁判決は、以下のように述べています。
 「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。このように、『相続させる』趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁、最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。」

 しかし、このような最高裁判決の結論を貫くと、以下のような問題がありました。
(1)相続人Aが「相続させる」という表現のある遺言により法定相続分を超える不動産の権利を取得したが、第三者がそれを取得したり、相続債権者が差し押さえた場合
⇒相続人Aが常に優先
(2)相続人でないBが遺贈により不動産の権利を取得したが、第三者がそれを取得したり、相続債権者が差し押さえた場合
⇒登記(対抗要件)の先後で決する
(3)相続人Cが遺産分割により法定相続分を超える不動産の権利を取得したが、第三者がそれを取得したり、相続債権者が差し押さえた場合
⇒登記(対抗要件)の先後で決する
 このような結論となり、(1)の結論は、遺言の有無や内容を知り得ない第三者や相続債権者の利益を害し、登記制度や強制執行制度の信頼を害するおそれがあるという問題がありました。

 そこで、改正民法は、上記の判例法理を変更し、「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)についても、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者・債務者に対抗できないものとしました。

 改正民法の条文は以下のとおりです。
第899条の2
第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
第2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 これにより、「相続させる」との表現のある遺言の場合は、対抗要件を備えることが重要になってきます。また、対抗要件については改正民法で明確化された遺言執行者の権限が問題となってきます。

 上記の規定は、2019年7月1日から施行され、施行日以後に開始した相続が原則として対象となります。


自筆証書遺言の活用(2)~法務局における遺言書の保管制度の新設~

 自筆証書遺言の問題点として、保管の問題、検認手続が法律上求められているということがあります。保管の問題とは、自筆証書遺言は自宅で保管されることが多く、紛失、廃棄、隠匿、改ざんなどが生じるおそれ、または行われるおそれがあるということです。

 これらの問題を解決するために、平成30年7月6日に成立した民法改正と同時に、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。
 これにより、法務局という公的機関で遺言書を保管する制度ができました。
 自筆証書遺言がさらに使いやすくなる制度ができたわけです。

 制度のポイントをいくつかあげておきます。

1 保管の対象
 自筆証書遺言のみです。
 封のされていない所定の様式(法務省令で定める様式)にしたがって作成されたものが対象となります。

2 遺言書の保管の申請をする法務局
 遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局(法務局のうち法務大臣の指定する法務局=遺言書保管所)の遺言書保管官に対して行います。

3 申請の方式
 遺言書の保管の申請は、遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わわなければなりません。
 遺言書保管官が本人確認を行います。

4 遺言書の保管等
 原本が保管されるほか、画像情報等の遺言書に係る情報が管理されます。

5 照会、証明書の請求等
 相続人、受遺者等は、遺言書保管事実証明書の交付請求、遺言書情報証明書(遺言書の画像情報等を用いた証明書)の交付請求、遺言書原本の閲覧請求を請求することができます(遺言者の死亡後)。
 遺言書情報証明書(遺言書の画像情報等を用いた証明書)の交付、遺言書原本の閲覧がなされたときは、他の相続人等に当該遺言書保管の事実が通知されます。

6 検認の適用除外
 遺言書保管所に保管されている遺言書については、遺言書の検認に関する民法の規定(民法第1004条第1項)の規定は適用されません

 この制度は、2020年7月10日(金)から施行されます。


自筆証書遺言の活用(1)~民法改正による自筆証書遺言の方式緩和~

 よく遺言書の作成は、自筆証書遺言よりも公正証書遺言で作成しておいた方がよい、安全であるという話をききます。
 確かに、自筆証書遺言は、遺言者が自書しなければならないなどの方式が定められていること、家庭裁判所での検認手続が法律上求められていること、遺言書の保管、また本当に遺言者本人が作成したのか公正証書による場合よりも争いになり得ることなどの問題があります。
 しかし、他方で、公正証書の場合は、作成に公証役場での手数料がかかり、特に、遺言書を書き換える場合にはその都度手数料がかかることになります。
 私の実務上の経験でも自筆証書遺言にお目にかかったことは少なくなく、きちんと作成、保管されていれば、有効な遺言書としてしっかりと機能しますし、書き換えも臨機応変にできます。

 従前、自筆証書遺言については、遺言書全文の自書が法律上要求されていたのですが、この度(平成30年7月6日成立)の民法改正によって、自筆証書遺言の方式が緩和され、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとされました。
 これにより、財産目録については、パソコンで財産目録を作成したり、通帳のコピーを財産目録として添付したりすることができるようになったわけです。
 従前は財産目録についても全文の自書が要求されており、また、自書している途中で書き損じた(記載を誤った)場合は、厳格な加除訂正の方法(遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に押印する。)が法律上定められているため、多数の不動産を持っている方や預貯金の数が多い方など財産について多数の記載事項がある方は、全文の自書をすることが相当な負担となっていたと思われます。
 このような負担が、今回の民法改正によって軽減され、自筆証書遺言が作成しやすくなったということです。
 
 法律(改正民法)の条文としては、次のようになっています。
第968条
第1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
第2項 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
第3項 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

 財産目録については、遺言者が全文を自書することは要しないのですが、目録には全てのページ(裏表両面がある場合は両面)に遺言者が署名押印することは必要とされています。これにより偽造の防止ができるとされています。

 この自筆証書遺言の方式緩和は、平成31(2019)年1月13日から施行されています。
 これにより自筆証書遺言の作成件数が徐々に増加していくのではないかと考えています。

 以上は、遺言書の方式についてのことです。
 遺言書の有効無効については、遺言書に書き込む内容についても問題となりますので、判断が難しい場合は、専門家に相談されるのが良いと思います。

 当事務所においても、相談の際に上記の新しい制度をお知らせし、自筆証書遺言の作成にとりかかっている依頼者の方がいらっしゃいます。


死後事務を誰かに頼むには

 自分が死亡した後、医療費や老人ホーム等の施設使用料の支払い、年金、健康保険や介護保険等の手続、葬儀、埋葬や永代供養等に関する事項、その他のいわゆる死後事務を誰かに頼むことはできるでしょうか。

 誰かに事務処理を頼むということは、法律的には、委任契約又は準委任契約となりますが、これらの契約については、委任者・委託者の死亡により終了するとの条文があります(民法653条1号、656条)。
 したがって、生前に死後事務についてこれらの契約を結んでいても、頼んだ人が死亡してしまうと、死後事務に関する契約が終了してしまい、契約をした意味がなくなってしまうようにも思えます。

 しかし、死後事務に関する契約については、その効力を認めた最高裁の判決があります(最判平成4年9月22日金融法務事情1358号55頁)。
 この判決の事案は、入院加療中のAが、A名義の預貯金通帳、印章と預貯金通帳から引き出した金員をBに交付して、Aの入院中の諸費用の病院への支払い、Aの死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払い、Aが入院中に世話になった家政婦と友人に対する応分の謝礼金の支払いを依頼する旨の契約を締結していたところ、Bが、Aが死亡した後、その依頼の趣旨に沿って、病院関連費、葬儀関連費、四十九日の法要までを施行した費用や家政婦と友人に対する各謝礼金を支払ったというものです。
 原判決は、AがBに対して金員などの交付をしたのは、これらの各費用などの支払を委任したものであるから、委任者であるAの死亡によって委任契約は終了した(民法653条)として、Bは、Aから受け取っていた預貯金通帳、印章のほか、Bが支払った各費用などを控除した残金を、Aの相続財産をすべて相続したCに返還すべきであるとし、また、各費用などのうちBの友人に対する謝礼金の支出は、Cの承諾を得ることなくBが独自の判断でしたものであるから不法行為となり、BはCに対し同額の損害賠償責任を負うとしました。
 しかし、最高裁判所は、自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約がAとBとの間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者Aの死亡によっても契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべきであり、民法653条の法意がこのような合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところであるとして、契約が民法653条の規定によりAの死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤っていると判示しています。

 したがって、この最高裁判決に従えば、生前に、死後の事務について、それを頼もうとする相手と契約を結んでおけば、あらかじめ決めておいた死後事務を頼むことができます。

 条項としては、その一部のみですが例示をすると、以下のようなものにすることが考えられます。

 成年後見人がついた場合は、民法第873条の2が新設され、療養費の支払いのような弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の死後事務が成年後見人の権限に含まれることが、法文上、明確にされ、成年後見人は、一定の行為については、家庭裁判所の許可を得る必要があるものの、成年後見人が同条の死後事務を行うことが法律上明確にされました。
 しかし、この規定は、成年後見人のみを対象にするものです。

 自らの判断能力が衰えた場合の生前の財産管理を人に委ねる方法としては、成年後見のほかに任意後見という方法があります。成年後見の場合は、誰が成年後見人として本人の財産管理を行うかは本人の判断能力が衰える前には決まっていません。成年後見人が選任される時に裁判所が決めます。しかし、任意後見の場合は、本人がまだ判断能力のある時に公正証書を作成して、判断能力が衰えた後に任意後見人となるべき人を決めておくとともに、その代理権の範囲をあらかじめ決めておくものです。したがって、わざわざ公正証書を作って任意後見人を選任しておこうという人は、死後の事務についても誰かに頼んでおきたいという考えを持っていることが多いと思われます。

 しかし、死後の事務について、任意後見の公正証書に何も定めがなければ、任意後見人は死後の事務について当然に行うことはできません。任意後見人には、上記のように民法第873条の2の規定の適用もありませんので、応急処分(民法第876条の5第3項、民法876条の10第2項、第654条)や事務管理(民法第697条)の規定を根拠に、死後にどこまでの事務を行うことができるのかの可否を判断することになります。

 任意後見人に死後の事務についても頼みたいということであれば、任意後見契約と死後事務委任契約をパッケージで結んでおくと判断能力を喪失した後、死後の事務についても円滑に進めてもらうことができます。また、判断能力が低下して任意後見が開始される前の見守り(安否確認や法律相談など)や財産管理契約、死後の遺産の処理や相続に関する遺言書の作成などを加えると、かなり充実したメニューとなり、イメージとしては、下の図のようになります。

相続人が存在しない状態で亡くなる方も増えてきており、また、相続人がいても死後に争いになるケースも増えてきています。生前において、判断能力が衰えた後や死後において、自分の意思がきちんと実現されるよう対策を講じておくことが、ますます重要になってきていると思います。