「相続と税務」カテゴリーアーカイブ

遺留分減殺請求と相続税の申告・納付

 相続や遺贈により財産を取得した者は、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額を超える場合、その者に係る相続税の課税価額に係る相続税額があるときは、相続開始があつたことを知つた日の翌日から10か月以内に課税価格、相続税額等を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならないとされています(相続税法第27条)。

 遺留分権利者が、上記の申告期限内(相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)に、遺留分減殺請求権を行使したものの、いまだ減殺請求に基づき返還又は弁償すべき額が確定していない場合に、遺留分権利者はどのような相続税の申告・納付をすればよいのか悩むところだと思います。
 以下、税関係の法令の条文等を読んで私が理解した内容を整理の意味もかねて述べたいと思います。

 遺留分減殺請求権の性質については、最高裁判所が、遺留分権利者が民法1031条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による必要はなく、またいったん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるとしています(最判昭和41年7月14日民集20巻6号1183頁)。
 いわゆる形成権説と呼ばれる考え方であり、申告期限前にこのような形成権の行使がなされた場合は、その結果、遺留分に相当する分の相続税額を記載した申告書を提出し、それに相当する相続税の納付を行う必要があるのではないかとも思えます。

 しかし、税法ではそのような取扱いはされておりません。

 まず、相続税基本通達11の22-4では、相続税の申告書を提出する時において、まだ遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が未確定の場合には、当該事由がないものとした場合における各相続人の相続分を基礎として課税価格を計算することに取り扱うものとするとされています。
 したがって、遺留分権者は、遺留分減殺請求権の行使を行わない場合における遺留分権利者の課税価額に係る相続税額を計算し、相続税額があるときはそれに基づいて申告、納付をすることになります。
 例えば、遺言書では取得分を1000万円とされていたが、遺留分減殺請求権行使の結果、最終的に取得額が上記の1000万円を含めて2500万円となった場合でも、申告時において2500万円の取得が確定しない場合は、1000万円を取得したことを前提に相続税の申告、納付を行えばよいということになります。

 その後、遺留分減殺請求権の行使による取得額が確定した場合は、修正申告や期限後申告を行うことになります。

【修正申告の場合】
 相続税法第27条の規定による申告書を提出した者は、遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したこと、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があつたことにより、既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができるとされています(相続税法第31条、同法第32条第1項第3号、同項6号、相続税法施行令第8条第2項第1号)。 

【期限後申告の場合】
 相続税法第27条第1項の規定による申告書の提出期限後において、遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したこと、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があつたことにより、新たに第27条第1項に規定する申告書を提出すべき要件に該当することとなつた者は、期限後申告書を提出することができるとされています(相続税法第30条、同法第32条第1項第3号、同項6号、相続税法施行令第8条第2項第1号)。

【延滞税の問題】
 相続又は遺贈により財産を取得した者が、遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したこと、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があつたことによる期限後申告書又は修正申告書を提出したことにより納付すべき相続税額については、申告書の提出期限(納期限)の翌日からこれらの申告書の提出があった日までの期間は、延滞税の計算の基礎となる期間に算入しないとされています(相続税法第51条第2項第1号ハ、同法第32条第1項第3号、同項6号、同法第33条、相続税法施行令第8条第2項第1号)ので、延滞税は発生しないこととなります。

【遺留分減殺請求を受けた側の問題】
 相続税について申告書を提出した者は、遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定したこと、相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があつたことにより、当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、それらの事由が生じたことを知つた日の翌日から4か月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額につき更正の請求をすることができるとされています(相続税法第32条第1項第3号、同項6号、相続税法施行令第8条第2項第1号)。

 


節税目的の養親縁組についての最高裁判例

 当ブログの以前の記事(2016年11月9日「節税目的の養子縁組」)に関する最高裁判例(最高裁判所平成29年1月31日判決・平成28年(受)1255号、裁判所ウェブサイト掲載判例)が出ておりますので、フォローして紹介しておきたいと思います。

事案としては、亡Aの長女と二女が、亡Aの長男の子(つまり、亡Aの孫(平成23年生まれ))との養子縁組を、縁組をする意思を欠き無効であるとして争った事件です。
事実経過としては、亡Aは平成24年3月に妻と死別し、平成24年4月、長男夫婦と孫ともにに自宅を訪れた税理士等から、孫を養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受け、その後、養子となる孫の親権者として長男夫婦が、養親となる者として亡Aが、証人として亡Aの弟夫婦が、それぞれ署名押印して、養子縁組届に係る届書が作成され役所に提出されたというものです。

最高裁判決は、次のように判示して、養子縁組を有効としています。
・「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」
・「したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」
・「そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」

原審(東京高等裁判所平成28年2月3日判決・平成27年(ネ)5161号)は、「前記1に認定した諸事実を併せて考えれば、本件養子縁組は、専ら、税理士が勧めたA死亡の場合の相続税対策を中心としたAの相続人の利益のためになされたものにすぎず、Aや代諾権者であるB夫婦において、Aの生前にAと被控訴人との間の親子関係を真実創設する意思を有していなかったことは、明らかというべきである。」、「そうすると、・・・本件養子縁組は、Aや代諾権者であるB夫婦に真に養親子関係を創設する縁組意思がなかったことから無効といわざるを得ない。」と判断しており、事実認定をしたうえで縁組意思の存在を否定しています。私の読み方に誤解がなければ、東京高裁の判決は、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合でも、そのことの故に直ちに当事者間に縁組をする意思がないときに当たるとまでは言っていないように見えます。
そうだとすると、本件の最高裁判決は、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得ることを確認した上で、本件では縁組意思を認めた事例判決としての意味を有するものと思います。


節税目的の養子縁組

 マスコミ報道によると、最高裁判所第三小法廷(木内道祥裁判長)が、節税目的の養子縁組が有効かどうかが争われた訴訟の上告審弁論を平成28年12月20日に開くことを決めた、最高裁は、通常、第2審の結論を変更する場合に弁論を開くので養子縁組を無効とした第2審の東京高等裁判所の判決を見直す可能性があるとのことです。
 第2審の東京高裁の判決は判例集にも未掲載のようで原典にあたれていないので、事案の詳細は不明ですが、マスコミ報道によると、2013年6月に82歳で死亡した男性がその前年に行った長男の息子(孫)との養子縁組の有効性が争われている事案で、死亡した男性の娘2人が「父に意思はなかった」と提訴し、第1審の東京家庭裁判所の判決は、養子縁組を有効と判断したのに対し、第2審の東京高裁は「縁組は税理士から勧められた相続税対策のためであり、親子関係を結ぶ意思がなかったのは明らか」として養子縁組を無効としたようです。
 養子縁組の無効原因として、民法第802条第1号は「当事者間に縁組をする意思がないとき」をあげており、実際に養親子関係を形成する意思(実体的意思・実質的意思)がなければ養子縁組は無効になると解されています。この考え方(実体的意思説)によれば、他の目的を達するための便宜的手段として養子縁組の形式が用いられているに過ぎない場合には、「当事者間に縁組をする意思がないとき」として養子縁組は無効になると判断されることになろうかと思います。

 養親からの相続のみを目的とする養子縁組について考えると、成年養子にあっては養育目的の養子縁組というのは通常は考えられず、相続が養子縁組の主要な効果であるとも考え得ることから、相続についての効果意思がある養子縁組の場合と、単に相続税の軽減のみを目的としている養子縁組の場合とで分けて考える必要があるとも言えそうです。
 地裁や高裁レベルの過去の裁判例でも、養子縁組の動機や目的に相続税の節税が含まれていたとしても、そのことにより直ちに養子縁組が無効になるものではないと判断しているものがみられます。
 今回は、最高裁として、「縁組をする意思」について判断を示すことになるのか注目されるところです。

 法律的には、上記のように「縁組をする意思」が認められればよいのですが、税法上の取扱いは、養子縁組が法律的に有効でも、節税効果がそのまま全てについて認められるわけではないので注意が必要です。

 相続税の計算をする場合には、相続税の基礎控除額等については、法定相続人の数をもとに計算をします。例えば、基礎控除額については、「3000万円+600万円×法定相続人の数」という計算を行います。したがって、養子を増やせば増やすほど、基礎控除が増え、節税ができるようにも見えますが、実際はそのような制度にはなっていません。
 基礎控除額等の計算をするときの法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定の例外を除き、原則として以下のように一定数に制限されていますので(相続税法第15条第2項等)、注意が必要です。
 被相続人に実の子供がいる場合  1人まで
 被相続人に実の子供がいない場合 2人まで

→最高裁判決については、「節税目的の養親縁組についての最高裁判例」を参照(平成29年2月12日加筆)


小規模宅地等の特例は遺産分割で揉めたときに使えるか?

 平成27年1月1日より、相続税の基礎控除額の見直しが行われ、相続税の課税対象者が大幅に増加することになりました。
 基礎控除額は、3000万円+法定相続人の人数×600万円となり、従前の6割にまで縮小したため、都内や近郊に一軒家などの不動産がある場合は、容易に相続税の課税対象者となってしまいそうにも思います。

 ただ、ここで、活用できる相続税の軽減措置があります。
(1)小規模宅地等についての課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)
(2)配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)
です。

 では、(1)の小規模宅地等についての課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)とは、どのような制度でしょうか。
 この制度は、平成27年の相続税法の改正以前からあったものですが、個人が、相続や遺贈により取得した財産のうち、相続開始の直前に被相続人や被相続人と生計を同じくしていた親族等の居住の用に供されていた宅地等のうち(事業の用に供されていた宅地等も含みます。)、一定のものについて、限度面積までの部分(上記居住用宅地等の場合は平成27年1月1日以降相続が開始されたものについては330㎡まで)までは、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額をするという制度です。
 上記居住用宅地等については2割まで減額されますので、相続税の課税対象にならないためには、この制度は重要な役割を果たします。

 しかし、大切なことは、この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に、この特例を受けようとする旨を記載するとともに、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を申告書に添付する必要があることです。
 つまり、計算した結果、この特例を使うと相続税の基礎控除額の範囲内なので、相続税の申告の必要がないと考えて申告をしないと、この特例の適用は受けられなくなるので注意が必要ということです。

 租税特別措置法69条の4第4項には、以下のような定めがあります。
 「第1項の規定は、同項の相続又は遺贈に係る相続税法第27条の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から4月以内)に分割された場合(当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。」

 相続税法第27条の規定による申告書の提出期限というのは、相続が開始してから10か月以内ですが、この間に相続税の申告をして、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付する必要があるということになります。

 問題なのは、遺産分割について相続人間で揉めたまま、相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立せず、遺産分割協議書などの必要書類を相続税の申告書に添付できない場合にどうするかということです。

 この場合、租税特別措置法69条の4第4項には、「第1項の規定は、申告期限までに分割されていない特例対象宅地等には適用しない。」とありますから、いったんは、特例なしでの相続税の申告と納税をしなければなりません。
 しかし、その一方で、租税特別措置法69条の4第4項ただし書には、「ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内・・・に分割された場合・・・には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。」とも規定されていますから、相続税の申告期限から3年以内に分割されれば、この特例を適用して相続税額を再計算して更正の請求を行い、還付を受けることができます。

 申告期限後3年以内の分割となる場合には、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を添付する必要があります(相続税法19条の2第3項、租税特別措置法69条の4第6項等)。
 この書面には、「分割されていない理由」や「分割の見込みの詳細」を記さなければなりません。
 「分割されていない理由」としては、遺産分割調停中などの場合は、「裁判所で遺産分割調停中であるため。」と記載すればよいことになります。

 さらに、遺産分割で揉め、申告期限後3年を経過しても解決できない場合もあり得ます。
 この場合に特例の適用を受けるためには、上記租税特別措置法69条の4第4項ただし書の条文の中の括弧書きにあるように、
・「当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において」、
・「政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受け」、
・「当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から4月以内」に分割された
という条件が必要になってきます。

 租税特別措置法施行令40条の2の第16号では、
・「相続税法施行令・・・第4条の2第1項の規定は、法第69条の4第4項ただし書に規定する政令で定めるやむを得ない事情がある場合及び同項ただし書に規定する分割ができることとなつた日として政令で定める日について準用」すること、
・「相続税法施行令第4条の2第2項から第4項までの規定は、法第69条の4第4項ただし書に規定する政令で定めるところによる納税地の所轄税務署長の承認について準用する」こと、
が定められています。
 そして、これを受けて、相続税法施行令第4条の2第1項では、政令で定めるやむを得ない事情がある場合として、「当該相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合」があげられ、その場合の分割ができることとなった日として政令で定める日については、「和解若しくは調停の成立、審判の確定又はこれらの申立ての取下げの日その他これらの申立てに係る事件の終了の日」とされています(第1項2号)。
 また、相続税法施行令第4条の2第2項では、政令で定めるやむを得ない事情があることにより税務署長の承認を受けようとする者は、当該相続又は遺贈の申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、その事情の詳細その他財務省令で定める事項を記載した申請書を当該税務署長に提出しなければならないとされています。

 したがって、相続税の申告期限後3年以上を経過しても遺産分割がまとまらない場合については、遺産分割調停、審判等の裁判手続が行われていることが、特例を認めてもらううえで極めて有効となってきます。

 この問題は法律と税務が絡む複雑な問題を含んでおり、期限の問題もあるので、タイムリーに適切な措置を講じる必要があります。
 特に、遺産分割で揉めて長期化しそうな場合には、弁護士、税理士などの専門家の助力を得るのが賢明と思います。