遺留分の計算式~改正民法による計算式の明文化~

 遺留分の計算を具体的にどのようにするかについては、「遺留分の算定」で判例を紹介して述べたとおりです。
 計算式は、以下のようなものでした。
【計算式】
①遺留分算定の基礎となる財産額
 =相続開始時の財産額+贈与した財産額-相続債務の額
②遺留分率
 =遺留分割合×法定相続分割合
③遺留分侵害額
 =遺留分算定の基礎となる財産額(①)×遺留分率(②)
  -特別受益の額(④)
  -相続により得た財産の額(⑤)
 +相続債務負担額(⑥)

 民法の条文としては、以下のものがあります。
第1029条第1項
 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

 この条文で示されているのは、上記の【計算式】の①の部分です。

第1028条 
 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の 一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

 この条文では、上記の【計算式】の②のうち「遺留分割合」が示されています。
 
 しかし、これら以外の部分は条文で示されておらず、判例が埋めていたという状況でした。

 平成30年7月6日に成立した改正民法は、民法が明示的に規定していなかった計算式を判例を参考にして明文化しました。
 条文は、以下のようになっています。

第1043条第1項
 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
 
 これは、上記の【計算式】の①の部分にあたります。

第1042条
 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

 この条文が、上記【計算式】の②の部分にあたります。

第1046条第2項
 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額
二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 そして、これが上記【計算式】の③の部分にあたり、【計算式】の④から⑥は一号から三号に対応しています。

 計算式は、以下のようになります。
【計算式】
①遺留分算定の基礎となる財産の価額
 =相続開始時の財産の価額+贈与した財産の価額-債務の全額
②遺留分率
 =遺留分割合×法定相続分割合
③遺留分侵害額
 =遺留分算定の基礎となる財産の価額(①)×遺留分率(②)
  -特別受益(遺贈又は特別受益にあたる贈与)の価額(④)
  -具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額(⑤)
 +遺留分権利者承継債務の額(⑥)

 具体例で見てみたいと思います。

 上の図のように、被相続人をAとします。
 妻に先立たれており、相続人は、長男甲、長女乙、二女丙です。
 4000万円の遺産があるものの、3000万円の債務があります。
 生前に家業を継いだ長男に生計の資本として1億円の贈与をしており、長女甲と二女丙にもそれぞれ500万円ずつの生前贈与をしています。
 何も遺言がなかった場合、どのようになるでしょうか。

 遺産分割をすることになりますが、法定相続分と特別受益の持ち戻しの規定に従って、具体的相続分に応じて各自が取得すべき遺産の価額(⑤)を計算すると、以下のようになります。
 遺産4000万円+特別受益(甲1億円+乙500万円+丙500万円)
 =1億5000万円
甲 1億5000万円×1/3(法定相続分)-1億円(特別受益)=-5000万円
乙 1億5000万円×1/3(法定相続分)-500万円(特別受益)=4500万円
丙 1億5000万円×1/3(法定相続分)-500万円(特別受益)=4500万円 

 残っている遺産は4000万円ですから、これを乙と丙で半分ずつ(乙4500万円:丙4500万円=1/2:1/2)分けることになり、上記の【計算式】の⑤は、乙2000万円、丙2000万円となります。

 上記【計算式】の①は、
遺産4000万円+特別受益(甲1億円+乙500万円+丙500万円)-債務3000万円=1億2000万円
 上記【計算式】の②は、乙、丙ともに、
 遺留分割合1/2×法定相続分割合1/3=1/6です。
 また、上記【計算式】の⑥の相続債務負担額は、法定相続分1/3に応じ、乙、丙ともに、3000万円×1/3=1000万円となります。

 したがって、乙、丙の遺留分侵害額は、いすれも、
 1億2000万円(①)×1/6(②)-500万円(④)-2000万円(⑤)+1000万円(⑥)=500万円となります。

 よって、乙、丙ともに、上記④の2000万円のほかに遺留分侵害額として500万円を得ることができますが、債務を1000万円引き継ぐ、つまり差し引きで1500万円ずつを取得するということになります。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です