被相続人の預金を調査できるか?

 被相続人の生前、被相続人と同居していた相続人が被相続人の預金を管理していたような場合、他の相続人からの預金の内容の開示請求に対して、預金を管理していた相続人が、それを開示することが不利になると考えたり、開示を求めてきた相続人が被相続人の面倒を全く見ていなかったとの心情的な反感などから、容易に開示に応じない場合があります。

 他の相続人からみて、預金を管理していた相続人が、被相続人の生前に使い込みをしていたのではないかとか、その相続人に対する多額の生前贈与があったのではないかなどの可能性を感じている場合には、開示を拒絶されるとより一層、何か隠しているのかという気持ちが強くなってしまいます。
 
 このような場合に、他の相続人が、直接、銀行などの金融機関に対して、単独で、預金の取引履歴の開示を求められないかというのが、本稿の問題です。

 取引履歴の開示を受けて、預金の入出金状況を調査できれば、それを手がかりとして、特別受益の有無やその額、不当な払戻しに対する不当利得返還請求、遺言がある場合に遺留分減殺請求を行うかどうか、などを判断するための有益な情報を入手することができます。

 銀行などの金融機関の実務上の取扱いについては、以前は、相続人全員の同意書がないと開示に応じない取扱いでしたが、平成21年に最高裁判所の判決が出て以来、大きく変わりました。

 最高裁の判決は、最判平成21年1月22日民集63巻1号228頁ですが、共同相続人の一人が金融機関に預金の取引履歴の開示を求めたものの、他の共同相続人全員の同意がないとして拒否された事案で、要旨以下のように判断しています。

 預金契約は、消費寄託の性質を有するものであるが、振込入金の受入れ、各種料金の自動支払等、委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれている。委任契約や準委任契約においては、受任者は委任者の求めに応じて委任事務等の処理の状況を報告すべき義務を負うが、預金口座の取引経過は、預金契約に基づく金融機関の事務処理を反映したものであり、金融機関は、預金契約に基づき、預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。
 そして、預金者が死亡した場合、共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(民法264条、252条ただし書)というべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。

 この判決が出されたことにより、共同相続人は、単独でスムースに金融機関から被相続人名義の預金の取引履歴の開示を受けられることになりました。

 もっとも、この判決によっても、いわゆる「相続させる」遺言(例えば、「A銀行B支店の預金は相続人甲に相続させる。」という遺言)が存在し、取引履歴の開示を求める預金が、相続開始後直ちに、遺言で指定された相続人に承継されることとなった場合等の金融機関の実務における取扱いは必ずしも確定していないようです。遺言等の存在に関わりなく上記最高裁判決に従って開示請求に応じる取扱いもあれば(私が取り扱った事件ではこのような対応を受けた例があります)、開示を求める相続人から事情等の説明を受けた上で判断をする取扱いもあるようです。


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