遺言が無効になる場合(1)~自筆証書遺言①~

 遺言が無効となる場合として、認知症などにより遺言能力を欠いていたという理由による場合がありますが、それとは異なり、方式違反という形式面の理由によって遺言が無効となる場合があります。

 公正証書によらない遺言として、自筆証書遺言があります。
 これは、遺言者が全ての内容を自筆で書いて押印する方法により作成する遺言です。誰でも、自分の手で、いつでも、作成することができる反面、法律により厳格な方式が定められています。

 民法第968条1項によると、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」とされています。
 つまり、有効に自筆証書遺言を作成するためには、①「遺言書の全文」、②「日付」、③「氏名」を、全て「自書」しなければならず、さらに、④「押印」が必要となります。

 なぜ「自書」が求められているかについては、最高裁の判決が、以下のように述べています(最判昭和62年10月8日民集41巻7号1471頁)。

 「自書が要件とされるのは、筆跡によつて本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない。そして、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会を要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐつて紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき『自書』の要件については厳格な解釈を必要とするのである。」

 つまり、遺言者の真意を「自書」という手段で確保することと、遺言書の偽造、変造を防ぐところに、「自書」を要求した理由があるということです。

 ところで、ある日突然、病気になって入院し、死期も間近に迫っているので、遺言書を作成したいと考えている、意識はしっかりしており、遺言能力にも問題はないが、体力も衰え、公正証書遺言を作成するだけの時間的、体力的な余裕はないという場合があり得ます。手先が震えるので、自分1人ではうまく自書はできないが、添え手があれば自署できるというような場合もあるでしょう。
 このような場合に、「自書」との関係で、どのようにすれば自筆遺言証書を有効に作成できるかという問題があります。

 まず、他人が代筆することは認められません。
 他人の代筆では、「筆跡によつて本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障すること」ができないからです。

 また、パソコンやワープロなどの機械を使って文字を書くという方法によることや機械を使った録音・録画の方法によることも、現行法の下では、「自書」の要件をみたさないので認められないとされています。

 では、他人が添え手をして書いた場合はどうでしょうか。
 この点について、上記の最高裁判例は、以下のように判示しています。

 「『自書』を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1)遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2)他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3)添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、『自書』の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。」

この判例の事案では、結論としては、「自書」の要件をみたさないとして遺言は無効としています。
 事案にもよると思いますが、有効と認められるのはさほど容易なことではないように思います。
 やはり、自筆証書遺言においては、一部でも自らの手で「自書」ができない場合は、無効になるリスクを十分に覚悟しておくべきでしょう。

 なお、手続が複雑であることによるのでしょうか、利用件数はあまり多くはないようですが、特別の方式による遺言として、死亡の危急に迫った者の遺言(死亡危急者の遺言、民法第976条)という方式があります。
 これは、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、遺言をする方法です。 口授を受けた者は、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせるか閲覧させ、各証人は、その筆記の正確なことを承認した後、署名押印しなければなりません。
 また、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求して確認を得なければ、効力を生じないとされています。
 差し迫った状況においては、この方式の利用も検討すべきでしょう。

 本記事が作成された後、自筆証書遺言については、遺言書全文の自書が法律上要求されていたものが、平成30年7月6日成立の民法改正によって方式が緩和され、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとされました。
 この方式緩和は、平成31(2019)年1月13日から施行されています。
 詳しい内容については、「自筆証書遺言の活用(1)~民法改正による自筆証書遺言の方式緩和~」をご覧下さい。
 本記事を読まれる際には、この点にご留意下さい。
 (平成31年1月18日追記)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です