遺言が無効になる場合(2)~自筆証書遺言②~

 前回に続いて、自筆証書遺言が無効となる場合について述べます。

 民法第968条1項によると、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」とされています。
 今回は、このうち、「日付」の自書について述べたいと思います。

 この点については、古くから数多くの判例がありますが、まず、比較的新しい裁判例を2つ紹介します。

東京地判平成26年4月25日(金融法務事情1999号194頁)
 この判決は、遺言書に、日付として「6月27日」との記載があるのみであった事案について、「本件書面の記載からは、それが何年の6月27日を指すものであるか明らかではない。そうすると、本件書面には、暦上の特定の日の表示がなく、民法968条1項にいう『日付』の記載を欠くといわざるを得ないから」、「自筆証書遺言としては無効というほかない。」としています。

 
大阪地判平成18年8月29日(判例タイムズ1235号282頁)
 この判決は、平成16年8月8日に死亡した被相続人が、「平成二千年一月十日」付けの自筆証書遺言を作成した事案について、次のように判示しています。
 まず、「日付」の記載がなぜ必要なのかについて、「民法968条1項が日付の自書を要求したのは、第1に、日付が遺言能力の有無を確定する基準となるからであり、第2に、互いに抵触する内容を持つ遺言書が複数存在する場合に、日付が遺言の先後を決定するための基準となるからである。」と述べています。
 そのうえで、遺言書が有効となるか無効となるかについては、「暦日を明記することによって日付を表示するのが同条項の要求に最も適うものといえるが、暦日の明記がなくとも、暦上の特定の日を表示するものといえるような記載がなされていれば、そのような自筆証書遺言は,証書上における日付の記載を欠くものとはいえず、有効と解するのが相当である。」としています。
 そして、この判決の事案については、「本件について検討するに、『平成二千年』なる年が、暦上は過去に存在しなかったものであることは明らかであるけれども、その記載自体から、これが『西暦2000年』あるいは、これに対応する『平成12年』を表示するものとして記載されたことが明らかであると認めるのが相当である。したがって、本件自筆証書遺言には暦上の特定の日を表示するものといえるような記載がなされていると認められるのであって、『平成二千年一月十日』の記載をもって、作成日の記載がない遺言書と同視し民法968条所定の自筆証書遺言の方式を欠くものということはできない。」としています。
 なお,この判決は,遺言が作成された経緯についても事実経過にそくして詳細に検討したうえで,実質的にみても、本件遺言書が、平成12年1月10日に書かれたものであることについて十分合理性があるとも判示しています。

 これらの2つの裁判例は結論が有効無効と反対になっていますが、その違いはどこにあるのでしょうか。

 過去の最高裁判例を見ると、以下のものがあります。

 最判昭和52年11月29日(裁判集民事122号271頁、家月30巻4号100頁)
 「自筆遺言証書に年月の記載はあるが日の記載がないときは、右遺言書は民法968条1項にいう日付の記載を欠く無効のものと解するのが、相当である。」
 上記の東京地判平成26年4月25日は、この判例の系統に属するものとみることができます。

 最判昭和52年11月21日(裁判集民事122号239頁、家月30巻4号91頁)
 「自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付の誤りは遺言を無効ならしめるものではない。」
 上記の大阪地判平成18年8月29日は、この判例の系統に属するものとみることができます。

 まとめると、遺言書の作成「日」が特定されていない記載については無効、誤記の類の記載については有効とするのが判例の傾向であると考えれます。

 最後に、最判昭和54年5月31日(民集33巻4号445頁、裁判集民事127号109頁)を紹介します。
 「自筆証書によつて遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであるが(民法968条1項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に『昭和四拾壱年七月吉日』と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である。」
 年月まで記載されていても「日」が「吉日」としか記載されていない事案では、日付が特定されているとはいえず無効とするものです。

 本記事が作成された後、自筆証書遺言については、遺言書全文の自書が法律上要求されていたものが、平成30年7月6日成立の民法改正によって方式が緩和され、自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいものとされました。
 この方式緩和は、平成31(2019)年1月13日から施行されています。
 詳しい内容については、「自筆証書遺言の活用(1)~民法改正による自筆証書遺言の方式緩和~」をご覧下さい。
 本記事を読まれる際には、この点にご留意下さい。
 (平成31年1月18日追記)


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